王国の、甘く苦い繁栄の歴史。
イエメンのコーヒーは、他のどの産地とも異なる。コーヒーの規格がない。エチオピアと同じくコーヒーの原種があり、その発祥の地と目される彼の地に広がる風景は、農園主がコーヒーの木を育て、収穫するそれではない。ハラズと言われる痩せこけた土地の斜面に、ただ神が植えた様に生え、その実がなっている。
そして、これらは15世紀にイエメンの主要港であったモカから、アラビア商人により世界中に広がった。
イエメンで取れるコーヒーは、モカマタリと呼ばれる。何でもトレーサブルされ管理されつつある現代も、どこで誰が生産したのかわかるものは殆どなく、欠点豆も多い、時代に取り残されそうな状況ながら、その味は唯一無二。現代のテクノロジーでは説明ができない、どこか神の息吹を感じるコーヒーと、世界中にファンが多く、日本でも「コーヒールンバ」に歌われるなど、人気が高い。
イエメンの食料の国内自給率は3割ほど、2017年のサウジアラビアの海上封鎖の影響を受け、総人口の2700万人中、800万人が飢餓に瀕しているとされる。他にもISISの扇動による内戦、コレラの蔓延、サウジアラビアから長く続く空爆、絶望が連鎖する。しかし、そんな苦難の最中も、その稀少なコーヒーは、私たちの食卓に運ばれる。イエメンの人々はコーヒーをあまり飲まないという。長年、輸出して外貨を稼ぐ手段であった。もし、お腹を満たす作物を多く作っていたなら。飲み干したその味は、罪深いほど甘く、苦い。
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