2019年、4月12日から14日。


アメリカのボストンで開催された、
Specialty Coffee Association(SCA)主催「COFFEE EXPO」に、
弊社製のコーヒー焙煎機「NOVO MARKⅡ」を出展。

ダイイチデンシが、アメリカの展示会に出るのは、
こちらが初めてである。

昨年2018年。
欧州向けに同マシンの販売を開始し、同年6月にアムステルダムでのWORLD of COFFEE
今年の6月はベルリンでの同展示会にも出展するが、
そのために英語の焙煎機サイトやプロモーション動画を作るうち、
はたと気づいたことがある。

それは、
ヨーロッパより、アメリカからの問い合わせの方が
「圧倒的に」多いのである。

まぁ、なんということでしょう。

慌ててアメリカの国際規格と輸出規制を確認。
そして、北米でのNOVOの商標を申請登録した。

そして中でも熱烈なお問い合わせのあったアメリカとカナダのお客様に、
ショールームのある京都、東京にまでお越しいただき、
ホノルルに二台、バンクーバーに二台、瞬間に売れてしまった。

パリやブリュッセルのノラクラしている欧州の見込み客とは大違い、
日本まで見に行くという選択をされるお客様の熱を感じた。

外食産業では、串カツ田中が、仕事帰りの独身のサラリーマン層を狙って
東京都内に串カツチェーンを出したところ、
むしろ家族連れのファミリー層ばかり来るというような、予想外の展開。

アピールしたい顧客層には刺さらなかったが、違う顧客の心には刺さる。
マーケティングをしっかりやれ!とその筋のコンサルはいうかもしれないが、
これはインバウンドマーケティングだ。

誰かを思って、尖ったものを作って発信すれば、
結果その誰かではなく、違う誰かには届くものかもしれない。
振り返ると、人生ってそんなもんではないか。

先ほどの串カツ田中は、今はほとんどの店で全面禁煙を実施。
豊臣秀吉ばりの大返しで、ファミリー層のお客様の心をガッチリと掴んでいる。

一方の焙煎機屋(私だ)は、
串カツ屋にまさに一本とられたましたな、などと、
動きが緩やかな欧州戦線から一時離脱、
今の需要があるお客様に応えていくのが正解であろうと、
新市場としてアメリカ方面に目を向けてみた。
折しも世間ではUSA!USA!とDA PUMPの曲が私の背中を押してくる。

アメリカ、世界を引っ張り続ける覇権国。
かつての覇権国イギリスの紅茶をボストン湾に投げ捨てて、
コーヒーを飲むことで世界に覇を唱えだした。
そして日本でのファースト、セカンド、サードウェーブ発祥の地でもある。

そうか、こっちか。日本、アジアと販売を広げてきた先を、
とりあえずアメリカに出てみようではないか、
少しの遠回りを経て、そんな思考に辿り着いた。

しかしながら、私はアメリカには、ハワイにしか行ったことがない。

あの宇多田ヒカルすら、さほど売れなかったかの大陸に、
私などのような弱小零細に、どんな可能性があるだろう。

しかし問い合わせは多くあり、現に数台売れたこの感触をもとに、
最初から世界最大のスペシャルティコーヒーの展示会「SPECIALTY COFFEE EXPO」に
出展することに決めた。

展示会に出れば、費用と労力はかかるが、
変なコンサルにマーケティングを頼むより、
自らの手でその感触がよりよくわかるというものだろう。

早速、世界3位の弊社の生豆パートナー、ボルカフェに聞くと、
確かにその展示会は世界最大、かなりの大規模なので、人は来るが、
埋もれてしまうことも、通常とのこと。

確かに昨年のアムステルダムの展示会も規模は世界2位だったが、
7割ぐらいの出展者がヒマそうにスマホをいじっている様は、
なんとも戦慄するものがあった。

しかし、そのアムステルダムと、
カカオ焙煎機で出展したパリの展示会でもそうであったように、
NOVOは魅せる焙煎機。展示会のウケは良いのである。

ただ、アメリカのSCAのルールでは会場での焙煎は禁止とあったが、
通常の焙煎では、煙が出ないと猛烈に交渉して許可をもらい、
会場で焙煎をすることをより前に出して、人を集めよう、まず見てもらおう、
そんな原点回帰でブースを作りあげた。

合言葉は「ROAST RIGHT NOW」

他にもいっぱい焙煎機はあるだろうが、まさにいま、幸いにしてルールでは焙煎禁止。
他社では、焙煎しているものはないだろう。焙煎してない焙煎機はただの置き物だ。

それをこちらでは、あっという間、五分ほどで、その焙煎する様が目で見える。
その焙煎豆を会場でばらまき作戦に出る。

「狩猟民族は動いているものに弱い、じっと見ている」と、
欧米人が多い香港のNOVOのオーナーが以前言っていたが、そこに賭けてみることにした。

迎えた初日。

確かに大きな会場で、焙煎機の会社だらけ。
しかしデモで動いているのはあっても、実際に焙煎しているのは我々だけであった。

焙煎し、焙煎した豆をブースで配り出したところ、
あれよあれよと人が集まり、大盛況となった。

狙い通り、アメリカからの問い合わせを集め、
注目を集めることに成功した。

初日来るはずのアルバイト(現地調達)に当日ブッチされたことも重なり、
まさに大忙し。
予想以上に良いスタートを切れたことにホッとした。

ブースの装飾も予想外の注目を浴びた。
マシンではなく、壁紙を動画や写真を撮って帰る人も。

さすがSCAA。周りはコーヒー農園やカフェ、コーヒー豆と、らしい写真の装飾が多かったが、
埋もれないために、何度もデザイナーさんと作り直した。

「昔、X JAPANのhideが、
 HRギーガーの仮面をデビューアルバムのジャケットにしたような感じ…
 何じゃこりゃ!というような、京都の世界観を、ドカンと!」

20年以上組むデザイナーさんには、毎回よくわからないことを言う顧客に、
今回も全力で応えていただいた。

そして、アメリカ向けにリニューアルしたサイトには、
新しいプロモーション動画も。京都のお客様であるコーヒーロースター、
Kanondo さんを舞台に、京都の新しいロースタリーカフェの様を
30秒、60秒にまとめた。

それは、遅刻してきたカフェ店員が、いつも開店と同時にやってくる常連に間に合うよう、
あっという間にお店をオープンさせるさまを表現したPV。

(もちろん、このストーリーはKanondoさんの日常ではなく、
 あくまでこれはCM上の演出です…たぶん)

ただ、多少だが予想外のトラブルもあった。

初日が忙しすぎてお客様としっかり話をできていない、ということだ。

しかし、深く考えているようなヒマはない。
どうしてかは重要ではなく、どうするかが重要になる。

来なかったアルバイトのメンバーはすぐに諦め、
現地で採用活動をすると、2日目からはコーヒーハンターさんのアテンドをされていた、
4か国語を駆使するブラジルの農園の方にサポートしていただくことに。
結果、最強布陣が完成した。

そんな2日目と3日目は土日のため、やや来場が減ったこともあるが、その分、
ひとりひとりの問い合わせにしっかり応えられた。

そう、気づいたら英語で、私もバッチリアピールが出来ていた。
何回も同じことを聞かれるので、焙煎機の紹介となると、もう余裕である。

日本からは象印と、ハリオと、富士電機さんらが出展されておられた。
何百とあるブースの中、日本勢はごく僅か。

そのせいか、会場でたまにみる日本人の方には、
みなさんに頑張ってください!と言っていただいた。

おかげで、こんな小さな会社で恐縮であるが、日本代表のひとりになった気分だ。

さて、半年ほど準備をしてきた展示会も終わる時はあっという間である。

初めて海外に来た弊社のエンジニアのメンバーも立派にブース対応してくれた。

そして3日間、ノーミスで焙煎してくれた愛機NOVOに、
最後はねぎらいの言葉をかけたくなる。いや、いつもかける。

本当の商売人は、嫌いなものを売るという。
好きなことに溺れず、客観的に見れるからだ。

一方、異国の展示会場で、設営から撤去までいて、
ひとりマシンに話しかけるような社長は私ぐらいのものだろう。

グローバルで、シビアな商売人になれる日はまだまだ先だ。
メーカーの誇りを胸に、まだ夢の途中にいるようだ。

展示会が終わり、引き上げのトラックが来るまで5時間。
暇すぎて、スタッフと山手線ゲームをしながら待つ。

ゲームのネタが尽きてきたころ、ふと見れば、
いつも見慣れたマシンが、会場で一番光って見えた。

まだまだアメリカでやっていくには、その挑戦は始まったばかり。
しかし良い感触と、多くの問い合わせを得た展示会であった。

また次のステップに向けて、次の計画、また新しいアクション。
そのサイクルを続けていくのみ。

いつかアメリカの各所で、NOVOを見かけた皆さんが、
「これ、京都の会社が一個一個作ってんねんで」、と言っていただけるよう、
また日々精進である。

いつか焙煎機界、コーヒー界、いや世界の、
小さくともキラッと光るブランドになるために。

最後に、アメリカでお世話になった皆様、
日本で様々なご協力、応援をいただいたみなさま、
心よりありがとうございます。

アウェイでの展示会は、
例えば忘れてきた文具をひとつ手に入れるのも、
実は一苦労があったりする。

そんな中でひとつひとつ助けていただいたことを、
いつになっても忘れないようにしたい。
Bostonより、感謝を込めて。

2019年4月19日
ダイイチデンシ株式会社
代表取締役 中小路 通