おかげさまで、少しずつ、知名度が増してきた気がする。
弊社製、魅せる焙煎機「NOVO」。
ダイイチデンシといっても、は?なにそれ?という程度ではあるが、
NOVOというと、「あ、なんか聞いたことある」、「あそこの店にあった」
「あ、NOVO作ってる会社?」など、嬉しい反応をいただけるようになった。
おそらく、ご導入の店舗様が300店舗を超えたあたりから。
今では日本国内では、43都道府県にご導入いただき、
お店の目立つ場所においていただくことが多いため、目にしていただく機会も増えてきた。
また、コロナ禍でのおうちコーヒーの需要増で、
このような世相に関わらず、順調に経営されている導入店様が多いことから、
お元気な様子を、各メディアを通じて登場されていることも大きい。
あとは、残り4県。
秋田・青森・香川・山口の4県からの
ご導入お問合せも、お待ち申しております!
と急にビジネス口調になると、
残りの4県、待たずに営業に行けばいいのに、と突っ込みを入れられてしまいそうだが、
コロナ禍であろうがなかろうが、こちらからはあまり出向くことはない。
呼ばれてお伺いするのは嬉しいが、
私は押しかけるような営業が、超がつくほど苦手。
押しが弱く、あきらめが早い。よく言えばストーカーの逆。
おかげさまで、46歳にもなるのに独身である。
そもそも、
「焙煎機、要りませんか?」
「あ、他の他府県にはそんなのがあるの、おひとつもらおうかしら、あら300万円、お手頃ねぇ」
という絵が見えない。
焙煎機とはお店の核・顔ともなるもの。
衝動で、見知らぬ男から、見知らぬまま、お買い上げいただくものではないだろう。
すこしずつ導入いただいたお店の評判を聞かれて、お問合せいただき、導入いただく、と。
地道にじわじわとブランドが浸透していくほうが、息が長く、幸せなのかもしれない。
大食いタレントみたいに、一気にいっぱいわーって食べるより、
一つ一つかみしめるように味わって食べるほうが絶対美味しいやん、
みたいな感覚。客を食料に例えるな!とお怒りの方、なんかすみません。
たとえば将来、60歳を超えて、
たとえば私が馬車馬のように働かなくてもよくなったとき、北から南まで、
いろんなオーナーさんをめぐって、お店のそれまでのストーリーなどを聞いて回りたい。
「そんなセカンドライフなんていいじゃない?」
とそんなこと思っていたら、
それって今できることだと気が付いた。
そもそも、開店してから一回も姿を見せないやつのことを、
誰が歓迎するだろうか。今でしょ!(死語)
そんなわけでここ数年は、近くに納品や旅行に行った際など、遠方でもふらり寄らせていただき、
お店の方にお時間の余裕があれば、お話を聞きながら、このように記事にもさせていただいている。
もちろん、コロナ第三波で、今は厳しい環境。
しかし少し前、ちょうどGOTO キャンペーンの折に、
温泉にいくついでにひとつ寄らせていただいたのは大分県の
「CIELO CAFE(シエロカフェ)」さん。
こちらを運営される「株式会社トータス」さんは、隣に「天海の湯」という温泉施設もお持ちで、
まさに旅路でふらりと寄るには、ばっちりの環境。
久しぶりにお会いする運営トップのSさんにご連絡をし、お店でお会いすることにした。
まずは温泉へと、お約束の1時間半前に到着し、隣の「天海の湯」。
納品の時からとても気になっていた。
別府温泉から少し離れた場所、市街地に近い丘の上にポツンとある、天然温泉。
窓の外には大分湾が見え、素晴らしい眺望だ。
かつては、温泉には全く興味なく、フランス人みたいにシャワーで済ませて、
シャネルの5番でもつけとくのがおしゃれと勘違いしていた。
温泉旅などは、不倫カップル以外需要あんのか、的な。
しかし、長野県の上田のお菓子屋さんに納品にいったとき。
隣にある温泉宿をとっていただき、1泊1飯をおごっていただいたことがある。
(鹿教湯温泉という、真田の忍びも傷を治した的な由緒ある温泉地)
そこで深夜、誰もいなくなった宿の温泉に、一人で入った温泉が最高で、
それ以来、温泉に目覚めたのである。
思えば、フランスかぶれの私を救い出したのは、
様々なお客様に、日本の文化を教えていただいたからだろう。
さて、「天海の湯」。
眼下には大分湾が拡がり、青い海と空。最高の気分じゃけん、と。
しばし、ぼーっとする。
思えば、リーマンショックで会社がつぶれそうにもなり、
かけずり回ったここ12年ほど。
色々あったけど、2017年からは毎年、創業以来の過去最高売上と利益も更新し続け、
コロナ禍でも無事に変わらず生きている。
ありがたい限り。そしていろんな人に世話になってきた。
ふと思い出したのは、1年半前、隣のCIELO CAFEさんに納品したときのこと。
2019年4月末。
別府でおりて、各駅停車に乗り換え、西大分駅より徒歩。
ちょうどアメリカのボストンで開催されたSCAの展示会に出展した直後、
カフェ視察をしたNYのマンハッタンから帰国したばかり、駅からの急な坂を上りながら、
「なんだこのド田舎は」と鼻持ちならない帰国子女のような気持ちになっていた。
坂の上にたどりつくと、先に来ていた弊社エンジニアが焦っている。
「電気が来ていないです」と。
「え?3日ほど前にも、お電話して確認したんじゃないの?」
とエンジニアに聞く。
「そうなんですけど、電気が来てないんですよ。」
電気だけで動く熱風式の焙煎機「NOVO」。
自然、納品時に電気がないと、単なる配達員に近いことになる。
つまり、電気をつけての試運転ができず、その後のレクチャーもできずで、困る。
そう、ただ玄関までの置き配だけでは納品とはいわない。
設置(30分)・試運転(15分)・レクチャー(45分)が納品当日の基本メニュー。
お店に入ると、ロシア映画みたいな重い雰囲気。
リーダーのSさんは、「こんな業務用の電気が必要とは聞いていない」と言われている。
どうやら、必要な三相電源ではなく、ご家庭用の単相電源と勘違いされていたようだ。
エンジニアはたしかに言った、設置仕様書も渡したと言っているが、
電気がそんな業務用のものとは気づかれていなかった、というわけだ。
これは弊社のご説明不足である。
現場にはリーダーのSさん以下、スタッフの方が8人ほどおられ、ピリピリムード。
エンジニアは少し泣きそうな顔で、「言ったんですけどねぇ」という。
スタッフの方が口々に、私たちに詰め寄られた。
「で、どうするんですか?!」
「え?僕たち、電気屋さんじゃないんです。建物の電気はお客様の方でひいてください。」
とは私。
「あなたがたメーカーがしっかり案内しないから、こうなっているんでしょう?」
「契約書に、見積書に、設置仕様書にも記載があり、
直前にもエンジニアから電話で案内しています。」
「そうかもしれないけど、パナソニックとか、ソニーなら、普通もっとちゃんとするよね?」
たしかに、素人の方にもしっかり伝えるのがプロフェッショナル、
そしてスタッフがプロと言えないふるまいをしたかもしれないなら、
その上司(私だ)が謝るのが自然だろう。
しかし、未熟な私はこういうときはたいてい、うまく謝れない。
そう、もっと謝って生きてきたら、どんなになだらかな道だったろうか。
「え?テレビ買ってきて、電気ないから見れないのって、ソニーのせいなんですか?
それは知らなかったです。」
「なんや、なめてるんか?」と、一番威勢のよいスタッフさんがまさに飛び出してきた。
「あ、上司の前だからって、活躍しようとしてるー!
そういうの、やめてもらえますか?」
文字通りの大喧嘩になりそうなその時、
「いい加減にしてください!」とマネージャーのMさん。
たしかに不毛なやりとりはやめようと、お店の電気状況をエンジニアが確認すると、
3相電源は店内にはなく、弊社の焙煎機だけでなく、
他に購入されたエスプレッソマシンなど動力を使うものは全部アウトと判明した。
エンジニアはうちだけでなかったと、逆にホッとしたようで、
そこからは生き生きと、店内を動きだし、
マネージャーさんに呼んでいただいた九州電力の方と一緒に店周辺を調査。
すると、地下駐車場の方には業務用の3相電源が生きていることを知り、
そこに焙煎機をもっていき、試運転とレクチャーとなった。
大喧嘩したスタッフの人もいる中、どうなるかと思ったが、
そのレクチャーは、最も盛り上がったと思う。
無事に電源が入ったときには、
おおー!すごい!動いた!
電気すらなかったところからのスタート。
NOVOが暖気をはじめて、熱風を出しはじめたときには、
スタッフの方とSさん、マネージャーさん、我々で、
これからキックオフが始まるサッカーチームのようにひとつとなった。
持参したコロンビアスプレモを3種類に焼き分け、
その間、スタッフの方全員に使い方、日々のお手入れの仕方も完璧にマスターしていただき、
無事にレクチャーは終了した。
しかし、このまま帰るには惜しい気がしていた。
「あの、良かったらですけど、このあと、珈琲の淹れ方もレクチャーしましょうか?もうすぐ開店と思いますので。」
というと、私と大喧嘩したスタッフさんが、
「はい、やりましょう!焙煎機の社長!」と、ノリの良いひとこえ。
早速、駐車場から工事中の店舗に戻り、
エンジニアが電気の打合せを九州電力さんとしているのを尻目に、
焙煎したてのコロンビアのスプレモを3種使って、珈琲の淹れ方教室を。
良い香りが、店内中に広がる。
「本当、浅煎り、中煎り、深煎り、同じ豆で全然違うんですね」
「いやー、本当に良かった」
「最高のマシンですね」
スタッフの方が口々に言われる中、Sさんがひとこと、
「アンタの態度はもうひとつやけど、NOVOとスタッフは最高やな。ありがとう。」
と、茶目っ気ある笑顔。さすがは貫禄あるリーダーである。
ありがとうと、ごめんなさいが言えるのが真のリーダーということを、
私はまたもお客様に教えていただいた。
その後は、スタッフさんも含めて固い握手をし、去ることに。
たぶん、これがコーヒーの持つマジック。
もしかしたら、街頭にテレビがはじめてきたときは、
パナソニックもソニーも、こんな騒ぎになったのかもしれない。
店の前には、その夜にお会いする大分の別のお問合せの方が、
なんとCIELO CAFEまで車で迎えにきていただいていたが、
私たちが、総勢9名のみなさんに送り出される様を見て、びっくりされていた。
「いやー、焙煎機の納品ってこんなに盛り上がるんですね。
僕たちも、導入をしたときは楽しみです」
そう、お迎えにきていただいた、その藤井さんも、のちに由布市にご導入をいただいた。
さて。時は2020年秋に戻る。
「天海の湯」を出た私は、SさんとCIELO CAFEのテラス席から、
大分の海を見ながら、思い出話。
「あのあと、君の生意気なふるまいが気になって気になって、色々調べてしまったよ」
と笑われる。
過去に出たテレビや記事なども見ていただいたようだ。
「素晴らしい活動と、製品やね、おかげで物凄いいいよ。ありがとう。」
店内はコロナ禍でも大人気であった。
テラス席は、穏やかな海、そして空。
CIELO CAFE(天空のカフェ)の名にふさわしい。
イタリアンが得意な凄腕のシェフが作るパスタを食べて、
コーヒーをいただく。
温泉に、美味しいスパゲティ、コーヒー、そして大分湾の眺望。
こんな贅沢な場所はない。NYにもなかった。
帰り道は、Sさんに大分駅まで送っていただいた。
「本当に珈琲がね、めちゃくちゃ評判なんよ」とSさんは嬉しそうに言われる。
しかし、その魅力は空間と料理とコーヒーだけではない。
天地人がそろうとなんでもできると中国のえらい人がいったそうだが、
スタッフの方の連帯感と、店を思われる熱い思いが一番の力だろう。
1年半ぶりに来た私をスタッフの方はしっかり記憶していてくれた。
あのとき、地下の駐車場で、焙煎機を囲んでひとつになったとき、
熱い仲間のひとりと、もしかしたら認めていただいたのかもしれない。
いつか、60歳を越えて定年をし、大分にきたときも、出迎えていただけるだろうか。
そのためにも、今は熱い気持ちに応え続ける会社でありたい。
お客様に成長させていただいた、恩返し。
年を重ねるごと、より信頼をいただけるブランドであれるよう、
ひとつひとつ、日々を精進するしかない。
文責・撮影:中小路通(ダイイチデンシ株式会社)
2021年2月掲載