最近はありがたいことにNOVOのお問合せが多い。
ステイホーム、家飲み珈琲のニーズが恐らく過去最高に高まる中、
また新たな珈琲ブームがやって来たようだ。

しかし、2014年にブルーボトルコーヒーが来て、開店時は2時間並んだというような、
やや浮ついたブームではない。

2020年のコロナ禍、おうち時間、
ともすればくじけそうな心を癒す珈琲にスポットがあたっての静かなブーム。

そして、それらを販売する珈琲屋さんを焙煎からやりたいというお声。
本当にありがたい、嬉しい限り。
その地域を照らすようなオアシスを作っていただくべく、
ひとつひとつに心をこめてお応えしたい。
そんな気持ちで、お電話のお問合せの時には、ワンオクターブは声色があがる。

どなたでも修行なしで焙煎ができる。
安定性と再現性、それが強みのNOVOシリーズ。
それだけにお問合せは、珈琲店を新規開業されたいという方がやはり多い。

そして最近は、地方都市からのお問合せの方が多く、
失礼ながら、初めて聞いたような市町村の名前も。

「ものすごい田舎で、まったくの素人なんですけど、大丈夫でしょうか?」

そんなご質問には「大丈夫です!」と、さらに半オクターブ高めで申し上げたい。


特にこんなご時世では、インバウンドに無縁な土地柄、
田舎のお客様の方が、よりご商売がうまくいく傾向にある。

地元のお客様のこころをがっちりつかまれている、
最近のオーナー様で、真っ先に思いつくのは、大分県由布市。
そこで、とても楽しくお店をやられている、とあるお客様のこと。




「この前、完璧な一日があったんです。聞いてもらえますか?」

TOAST COFFEE ROASTER のオーナー藤井さんは、時に
NHK の朝ドラのセリフみたいなことを言われる、熱い男。





由布といっても湯布院の温泉街ではない、地方都市の住宅街。

「ねぇ、あの日は本当に完璧だったね。」と、
カウンター内で忙しそうにランチの仕込みをされている奥様に声をかけられる。

奥様は美しい方で、前の職場、学校で出会われたそうだ。

熱い男がモテるのは、朝のドラマだけではないようだ。




そんな藤井さん、生まれも育ちも大分県、
広島より東に行くことはめったにないと言われる。
お話をしていくうち、大分のことをものすごく愛されているのがわかる。
目をキラキラされながら、大分の魅力を楽しそうに語られる。

とり天、とりから、さっしー、焼きそば、温泉、焼き物。
おかげで、大分の様々な名産を教えていただいた。

中でも9割が大分産というカボスについても熱い。

「大分はカボスなんです、宮崎みたいにスダチではダメなんですよ。」

熱くなる理由は、隣の宮崎県にあるようだ。
宮崎県は、鳥の消費量でも争う、いわばライバル県。
大きく異なるのは、そんな鳥料理にギュッとしぼるにも、
彼らはスダチ、僕たちはカボスを使うことだと言われる。
ゴルフボールぐらいのがスダチ、テニスボールぐらいのがカボス。

どちらがどういいのかは、正直なところ忘れてしまった。
しかし、郷土愛が柑橘類までにも注がれていることは印象深い。

かつてイエスキリストが、私の血はワインといったそうだが、
大分を愛してやまない藤井さんの血は、カボスが流れているのかもしれない。





藤井さんとの出会いは今から3年前、2017年。

「現在、大分県の特別支援学校で教員をしています藤井と申します。
 福祉や教育のあり方をもっと楽しくしたいと、いろいろな活動をしてきましたが、
 悩んだ末に起業を考えていました。いつか、障がいのあるなしにかかわらず、
 みんなが幸せになれる場所を作りたいと夢を持っています。

 ネットで「テクノロジーで、おもてなし」のフレーズにこれだ!と思い、
 その数時間後には、大分から一番近くの北九州苅田にある
「天使がまいおりる」さんに着いていました。
 オーナー様からも丁寧な説明をしていただきました。

 本当に素晴らしい焙煎機ですね。
 この焙煎機なら、障がいのある方たちの仕事が作れると思い、
 まずは自分でお店を始めてみようと、準備をしています。
 ぜひ御社のNOVO MARKⅡで夢を追いかけたいと思いますので、よろしくお願いいたします。」

こんな丁寧で熱い、お問合せメールをいただいたことがきっかけ。


私たちダイイチデンシの企業理念は、「テクノロジーで、おもてなし。
製品を作るだけでなく、お客様や社会の役に立ち、喜んでもらいたい。
そんな気持ちをこめたスローガン。

藤井さんはこれを見て、気づけば、北九州に走っておられたと言われる。


企業理念から、製品のお問合せをいただくなんて、あまりない。
その会社の代表として、控えめに言って、物凄く嬉しいことだ。

学校という組織の中にいるだけではできることに限界がある。
社会に出て、自分たちで何かビジネスをはじめて、社会に影響を与えることをしたい。
具体的には、障がいをもった子供たちに、仕事を出せるようなビジネスをはじめたい。
そんな想いは強く響いた。

珈琲豆を売って生計を立てたい、ではなく、ビジネスをして、
障がいのある子供たちが成長したときに、仕事を発注をするために珈琲店をしたい。

初めてのケースのお問合せだった。
その後、何ターンか、熱い文章のやり取りをさせていただいたが、
月日は流れて、いつしか、忘れてしまった。



1年半経過したころ、藤井さんから再びメッセージ。
ご夫婦とも、教員をやめられて、いよいよご夫婦でお店を始めることになり、
ついては焙煎機を購入したい、とのこと。

思い出した。

しかし、
企業理念などのお話はしたが、直接、製品をしっかりご説明していなかったのではないか。

思い切って、広島より西へ、京都本社のショールームでNOVOを見たいと言われるので、
是非どうぞ!と、ちょうど上海で展示会をしていたところを一日早めに切り上げ、
京都へ。

《上海での展示会の風景》

ちょうど京都は桜の良いシーズン。

ご夫婦でショールームに実機をご見学いただき、京都の街をご案内しながら、実際のご導入店さんなどへ、これで夢が叶いそうと、気に入っていただき、ご契約をいただいた。




その後、私も大分に行かせていただき、
大分の藤井さんの行きつけの焼き鳥屋さんで、いっぱいご馳走になり、作戦会議。
聞けば奥さんを初めてデートに誘ったのもここといわれる。まさに藤井さんのホーム、独壇場。




店名には大切にされている言葉、「TOAST」をいれたいといわれる。
トースト屋さんをされるのかと思ったが、
「TOAST」とは乾杯をするという意味があり、
トーストではなく、トストと呼ぶそうだ。

そして、新築された建物ができたころ、夏に納品。




その頃には、実は奥様がものすごく多才なことを知る。
様々なハンドメイド雑貨を取り扱われていて、
器用貧乏と謙遜されるが、作家として既にご自分のブランド「Nono」までお持ちであった。





自家焙煎の珈琲とアーモンド、奥様の手作りのケーキ、ブランド雑貨の店の骨子ができあがる。
イメージはすでに同じ雑貨と珈琲のお店「天使がまいおりる」さんに行かれた時、いや、
きっと教員をやられていたころから、もうできておられたのだろう。
そして秋、2019年10月1日、珈琲の日に満を持してOPENされた。

佇まいはまるで、バルセロナの小さな博物館。
白いキューブ状のお店。





入ると左に、月夜の絵画、有名なアーティストの作品。
そんな店内の装飾、調度品、設計は奥様のセンス、素晴らしい世界観。




奥様は月をモチーフにしたアートや作品に造詣が深く、そのため、弊社アイテムで、月の満ち欠けを見ながら珈琲を作る、ビオダイナミクス農法を用いた「インド ポアブス農園」にも深く感銘をいただき採用いただいた。


藤井さんは、いつもの居酒屋で、「大将、いつもの!」というような男らしい方だが、
珈琲専門店の、時に非日常的な世界観を構築できるか、一縷の不安があった。
が、何のことはない。
ご夫婦でやられるお店の強み。奥様のセンスが抜群に際立ちながら、
そこに藤井さんの熱い、おもてなし精神が加味される。
きっと地域で一番の珈琲店になられるであろうことは、もう目に見えていた。




8か月ほど後、定期メンテナンスのサインが出た、とご連絡が。
NOVOは、焙煎機内の自動カウンターで焙煎時間だけを計測している。それが350時間経過すると、そろそろ定期点検の頃合いとでる設定になっており、焙煎頻度によってその期間は前後しながらも、およそ平均では、一年ぐらい。

それがたった8か月。かなりハイスピード。
定期メンテナンスは車検のようなもので、その費用がかかる。
ただ、一年が平均と聞いていたのに、予想以上のペース、8か月とは聞いてないよ、とはあまりどなたも言われない。
早めにサインが出るようなお店は、その分、予想以上に収益をあげられているからだ。

藤井さんご夫妻のお店も、弊社の生豆のご購入の数も多く、その人気ぶりは裏付けされていたので、納得のハイペースである。

実際、先日まで教員をされていたとは思えないほど、ビジネスセンスにも優れられており、いち早く、弊社でご提案させていただいたアーモンドの焙煎もされ、アーモンドをその場で焙煎する焼き立てを出すお店ということで、開店当初より、雑誌にも多く取り上げられておられた。




そんな風に、コロナ禍でも順調に売上をあげられる中、再び訪れた、2020年の秋。
ちょうど1周年となられるころであった。

「この前、完璧な一日があったんです、聞いてもらえますか?」

毎日、OPENされてからは立ちっぱなしでお忙しいと聞いていたので、
少しゆっくりお話を伺うために、
午前10時、開店1時間前に行かせていただくと、藤井さんからそんなお話が。

完璧な一日。
大分のカボス大使にでも、選ばれたのだろうか。





「教えていた子たちが働く施設に、
 今はコーヒーのドリップバッグの制作を発注しているんです。」

そう、3年前に話されていた藤井さんの夢は見事に、叶っていた。

「最近は人気で、その発注する量が半端なくて。
 いっぱい発注していたら、その子たちに、施設からボーナスが出たって。
 初めてのことらしいです。それが、このコロナの時期に…本当にうれしいです。」

藤井さんの目はいつもよりキラキラと、ちょっと涙ぐまれているようにも見えた。

「先日、そんな彼らがそのボーナスを持って、
 私たちの店に来てくれたんです。ケーキと珈琲を、みんなで食べて。」

思い出されながら、少し声が震える藤井さん。
奥様は忙しく開店のご準備。





「で、教え子たちを送り出したあと、いつも来られる常連さんがやってきて、
 きれいな夕焼けなので、一緒にみようと言われるんです。
 常連さんと夫婦そろって見たその夕景が本当にきれいで。
 経験したことないような、完璧な一日でした。」

おそらく3年前に、藤井さんが夢見た以上の、完璧な一日。

誰かのために始めたビジネスは、こんな世界的な緊急時でも必要とされた。
藤井さんご夫婦の挑戦が成功されているのは、自分たちだけでなく、
誰かのために始めた出発点であったからではないだろうか。そんな気がする。

「経験のないど素人でも、焙煎が、お店ができますか?」

と聞かれたら、答えはYESしかない。
誰かを笑顔にしたい、地域の役に立ちたい、そんなお気持ちだけで十分と。
自信をもってお答えすることができる。

藤井さんご夫妻の挑戦から、私たちは教えていただいたことがある。
完璧と思える一日が、定期的にやってくるようにする、
それこそが、私たちの自動化テクノロジーのミッションだ。

「テクノロジーで、おもてなし。」

当初、理想だけであった私たちの企業理念。
今は、様々なオーナー様の挑戦によって、
地に足のついたものとして、社会で役にたてるようにしていただいた。

経験がなくても、大丈夫。
完璧と思えるような一日の積み重ねが、きっと大切な経験となるから。

少しハイペースな、定期メンテナンス告知が来るたびに、
「TOAST COFFEE ROASTER」はより多くの経験と、多くのファンを獲得されていくに違いない。

文責・撮影:中小路通(ダイイチデンシ株式会社)
2020年12月掲載