『COFFEE MUSUME』

そんな映画を観たような気がする。
家族全員で、経営が厳しくなったレストランを立て直す。

そんなドラマを観たような気がする。
誰かの天才的な閃きに、即行動、SNSで集客をして話題になり、新しい店に生まれ変わる。


長崎空港から30分ぐらい。
レンタカーを借りて着いた先は、長崎県波佐見町。

波佐見町は、焼き物の町として有名。
カリタやメリタといったコーヒーブランドも近頃は波佐見焼のドリッパーを作る。

若い作家さんが、オシャレな陶器を作り、そんな器を使ったおしゃれな店もでき、
これから、新しい文化が生まれそうな場所。

そんな波佐見町が、私たちの長崎県初の納品。
そして、「NOVO」が九州全県をコンプリートした記念の街にもなった。

先方の名前は「儀式料理ジャンボ」様。

冠婚葬祭、様々な儀式、式典の時などの大きな寄合のためのレストランを長年やられていた歴史あるお店、
しかし、コロナ禍でそのような式はなくなり、経営が厳しくなられていた。

家族経営をされてきた中、世代交代、
今のオーナーはその森永家、長女の珠実さん。

珠実さんは、動きがものすごく速く、ポジティブで、ちょっと天然。
明るい、生まれながらのリーダーって感じ。
コロナ禍になって早速、クレープ店を立ち上げた。

波佐見は温泉でも有名な街、その温泉施設「湯治楼」内で昨年より経営されている。

クレープ店の名前は「MORINAGA SPECIAL CRAPE」。
SNS映えも有効に使われ、地元の雑誌では
2020年に波佐見町でOPENしたお店の中でも最も人気との評判を得る店に。

その勢いのまま、大人数のレストランから、コーヒーやカフェの事業に転換しようと、
様々なリサーチをされていたところで、このNOVOのサイトを見つけていただいた。

「ネットで見たときは、もうこれやん!と興奮しましたよ。」

とは珠実さん。

「カフェをただするだけじゃ、家族みんなで食べていくまではきっと難しいけど、
豆を焙煎して販売したら全然違う、そこまでは調べていたんです。
コロナでもステイホームで豆が売れているってことも。
でも焙煎が、もうめちゃくちゃ難しそうじゃないですか?」

折しも、将来のカフェ開業のための講座に習いにいってる最中、
弊社のサイトを見つけられたようだ。
焙煎はめちゃくちゃ難しいと先生も言ってたけれど、これだと、いけるんじゃない?と。

「次の日、お電話して、妹と京都にすぐ見に行って、
そして、これで私たちの人生が開ける!確信したんですよね。」

そう、珠実さんは3姉妹で、次女の方は現在産休中だが、
一緒にクレープ店も経営されている3女の詩穂さんと日帰りで弊社のショールームまで見に来ていただいた。

「始発で来て、今日は最終バスに間に合うように帰ります!」

新しい珈琲ビジネスをなんとかして、うまくいくようにと、真剣そのもの。

NOVOをみていただいたあとは、京都の珈琲店をまわりたいとのことで、車でご案内。

最初に訪問したところは、姉妹ともにSNSで見たと言われる人気店。

そこの看板娘の方は、超絶に不愛想。
私が何度行っても、目も合わせてくれないし、おそらく声も聞いたことがない。

その日も安定の塩対応で、すごすごテイクアウト珈琲を片手に帰る私に、
森永姉妹は爆笑。

「いやぁ、京都の人ってプライド高いっすねぇ。波佐見だと考えられないです」

その後は、南禅寺にあるブルーボトルコーヒー。

1杯1000円のアナエアロビコの珈琲をおごってもらいながら、
「こんな珈琲屋さん、やりたいね、かっこいい」
というお二人のキラキラした顔を見とれていた。

2人とも多分地元では有名な姉妹なんだろう。
熱意も半端なく、こりゃ流行りそうだな、なんて。

再会は納品日。

エンジニアと2名でレンタカーで到着。
入口には「儀式料理専門店 RESTAURANT JUMBO」と看板。

今は珈琲ショップ仕様にリニューアル中で、休業中。

店の名前も新しく考えられているという。
始めてお会いする、お父さま、次女の妹さんともご挨拶を。

そして、別便で運んだ焙煎機「NOVO」も到着。

30分も経たないうちに設置と試運転が完了し、
使い方のレクチャーを。

レクチャーは慣れている弊社エンジニアに任せて、
ボケーっとしておこうと思っていたら、
そのエンジニアは、オーナーのお祖父さんっぽい方とずっと話をしている。
どうやら戦争前の長崎のころの話のようだ。

そもそも京都に落とすつもりだった原爆は、
直前に長崎に変更になったのは有名な話。

デリケートな話をされているので、では私がとレクチャーをしていると、
子供たちが3人入ってきて、わいわいしながらの納品。

「近所の子供さんですか?」と珠実さんに聞くと、
「え?全員、私の子供ですよ。」とひとこと。

マジか。リーダー、大黒柱感が凄いのも納得。
以前に「家族みんなで食べていく」といわれた時の顔が真剣そのものだったことも。

「あ、ご結婚もされてたんですね、いやみなさん4世代で、一家総出ですね。」と私。

「4世代?….あ、あの人は、近所の話好きなおじいさんです。」


カオス!


ともあれ、長崎最初の納品は、わいわい盛り上がりながら、無事に終了。

これなら私たちにも使えると安堵いただいた。

「今日は波佐見に泊まられるんですよね。」

90分間、近所のおじいさんと話すという重要任務を終えたエンジニアを
近所の有田駅まで送ってお店に戻ると、
夜、一緒に作戦会議をしようという珠実さん、詩穂さんとお食事会。

このコロナ禍をどう乗り越えるか、真剣そのもの。

「みんなを私たちがひっぱらないと。」

並々ならぬ決意で、弊社のマシンを選んでいただいた。

とは言え、気を張ってばかりでは、ろくなことにならない。
ワイワイ言いながら、自然と店名はどうするかという話題に。

「あ、実はもうほぼ決めてるんです。」と珠実さん。

教えてもらったその名前は、ちょっと暗号みたいで、ピンと来なかった。
しかし、焙煎機屋が、そこまで踏み込むわけにはいかない。

またもおごっていただいた食事会が終わり、ひとりホテルについたころ、
三姉妹でロースターをされるんだし、
「シスターロースター」でいいやんとふと思いついた。

メールをする。

すぐに返事が来た。

「店名、実はイマイチだなと思ってたので、ありがたいです!
変えます!今から家族会議します。」

家族会議後、深夜にメールが来た。

「COFFEE MUSUMEでどうでしょう?」

コーヒームスメ。
全然違うやんと思いながらも、とてもキャッチーだ。

「バッチリです。」とお返事した。

後日、OPEN前にお伺いしたときに見せていただいたロゴマークには
私たちのマシン「NOVO」にもたれ掛かった娘がたっている。
控えめに言ってとても嬉しい。

駅まで送迎いただいた詩穂さんが言う。

「私たち、あそこのムスメさん、ムスメさんって昔から近所でよく言われているんですけど、
ただのムスメじゃなかったってこと、これから知ってもらわないとですね。」

思えばこれが、コーヒームスメ伝説の始まり、
それは忙しい日々の始まりでもあった。

そこからは本当にお忙しそうだ。
既にクレープ屋さんで注目のお店だったところに、
あそこのムスメさんたちが今度はコーヒーショップと、地元ではより評判に。

それを地元のマスコミ各社も放っておくことはない。
コロナ禍とは思えない取材ラッシュ。
良いスタートを切られた。

しばらくして、珠実さんからメール。
次の展開を考えたいんで、博多のカフェ巡り一緒にしませんか?と。

実は弊社も偶然、博多のリサーチをしていたところ。
いいですよと私もふらり、まずはお店の取材がてらに訪問。

その時はクレープ屋さんに詩穂さん、
ここCOFFEE MUSUMEには、珠実さん。
そしてお父さんがSNSで人気になっているスイートポテトを大量に作られていた。

店もお客さんが途切れずに人気。
さすが珠実さんは、お客さんとのトークも自然で軽快。

京都の看板娘より、生まれたての珈琲娘の方が、一枚も二枚も上手のようだ。

「おかげさまで珈琲豆買う人も多いんです。
特別なアピールはまだそれほどしてないんですけど。」

値段や品質以外に、差別化のポイントがあるとすれば、
それは「誰から買いたいか」ではないだろうか。
コーヒームスメの店内には、その目に見えない魅力がつまっているように見えた。

そして、次の日。
日曜日の休みを利用して、博多のカフェめぐり。
最先端のカフェが集う薬院から天神へ。

「実はダイイチデンシのNOVOのショールームもこの辺でどうかと
ちょっと前から思ってるんですよね」

なんて話を聞いてもらいながら、互いの将来のビジョンを交換する。
そこには壮大なブランド作りの物語があった。

やりたいと言い出すのは珠実さん、それを実行するべく、
具体的なアイデアを、妹の詩穂さんに話される。

「いいね、じゃあこうしよう」
「そうしよう、あ、どう思いますか?」

あっという間にいろんなことが決まっていくようだ。

珠実さんのアイデアは斬新ながら、やや詰めが甘いところを、
詩穂さんはそれを冷静に修正する感じ、
息はもちろんピッタリ。

カフェ巡りの終盤、珠実さんに質問してみた。

「アイデアはすごいけど、なかなか実行しない人っているじゃないですか?
お二人はそんな感じが全くないですよね。」

珠実さん「そういうのは嫌なんです。それってまったく意味ないですよね?」

詩穂さん「どうやったらうまくいくか、やりながら考えるぐらいの方がね、ウチらにはいいんですよ。」

そうだった、家族全員で、まずは食べていくために、
そして将来、それを楽しく続けていくために、常に新しい挑戦を。

やるかどうかを迷っているほどヒマじゃない。
素晴らしい決意とエネルギーだ。

後日、一緒にカフェめぐりをした天神地区に、
以前から計画していたNOVOの博多ショールームを作ったのは、
考えているだけでは、まったく意味がない。やりながら考える。
そんな、おふたりの言葉に後押しされた気がする。

COFFEE MUSUMEさんにはその後はお伺いしていない。
しかしSNSやTVを見ると順風満帆、コロナ禍と思えないほど、うまくやられているようだ。



もちろん、傍目にはわからないご苦労もあられるだろう、
しかし、心が許せる姉妹で、ご家族で、それらもきっと分かち合われているに違いない。

コロナ禍で始まったそんな物語は、これからどうなるのだろうか。

きっともっともっとうまくいく。

いっぱい挑戦しているうちに、思いもしなかった凄いところにたどりつく。
そんな映画みたいなドラマが、観られるような気がして。

文責・撮影:中小路 通(ダイイチデンシ株式会社)
2021年8月掲載