最近のビジネスパーソンときたら、口を開けばAIのことばかり。
オープンAI、アンソロビック、Googleに課金課金課金。
成長しなければ置いていかれてしまう、という幻想にとりつかれているかのよう。
かわいそうに。私もそんなひとり。



そんな中、ふと、ホッとする瞬間があるとすれば、少し遠くのお客様のお店に訪問するとき。
リフレッシュ。仕事にかこつけて、私はそんな旅をする。
そこには本物のコーヒーがあり、それを愛するお客様の笑顔に溢れている。
一杯のコーヒーを求めて。最高の役得だ。


そこは、鹿児島中央駅から徒歩10分。カフェ食堂RANというお店。

飲食店の中でも特に厳しく、開業から3年もたないのも6-7割とも言われるカフェ、しかし、なんとこちらのお店は、創業から40年。
それは、昭和、平成、令和と駆け抜けられている女性オーナーの一代記でもあった。


40年続いていながらまだオーナーが変わらない店は、どれぐらいあるのだろう。
ものすごく少ない気がして、AIに聞く。


1000店に1店、あるかないかと回答。
「もしあなたの街に、昔からずっと同じオーナーが経営している、40年以上の歴史がある喫茶店があるなら、それは宝くじに当たるような確率をくぐり抜けてきた、生ける伝説のようなお店です。」

これはもうミラクル、人間技を超えた、魔法使いとも言えるだろう。


そんな鹿児島市に住む魔女が、弊社の博多ショールームに娘さんと一緒に来られたのは2025年の終わり。


カフェ食堂を長らくやってこられたが、より今の時代に相応しい店にして、コーヒー豆の焙煎を始めて、今後は娘さんにも継承されていきたいとのこと。
さまざまなお話をお聞きし、ご質問にもお答えするうち、私たちのマシンを良いと思っていただいたよう。


全盛期の倍賞美津子みたいなオーラで、素早いテンポで、ざっくばらんに話されるオーナー。

しかし驚いたのは、ものすごく弊社のサイトを緻密にも読み込まれてきたこと。
質問がひとつひとつが的確であった。
そして、このマシンをどんな会社が作ったのか、それを見にこられた気がした。


「あなた、見た目はイマイチだけど…マシンはいいね。」


魔女のお眼鏡にかなったようだ。


その後、弊社のマシンをご購入いただいた。

納品日が近づくにつれ、オーナーさんよりさまざまなご質問をいただく、どうやら後継の娘さんより、オーナーさんの方が、より楽しみにされているような。
珈琲の焙煎という、新展開を模索されるうち、どんどん楽しくなられてきたもよう。
若者には頑張ってほしいが、まだまだ席を譲る気はない、まるでユニクロ、ソフトバンクの創業者がいつまでも元気なような、そんな覇気を感じた。


さて、今回は納品させていただいて、少し経ってからの訪問。
40年もの現役選手の話は面白い。
私もうっかり魔法にかかったようで、他に何の用もないのに鹿児島まで訪問。
お忙しい中、取材と称してお店の歴史をお聞きする。
そのお話はやはり面白く、波瀾万丈すぎて、令和では全カットとなった。



昔は私もモテたと何度か言われたが、たしかにモテられたと思われる。
娘さんもとても麗しいお顔をされており、それらはしっかり継承されていた。

かつてのオーナーは店をやられながら、毎晩のように飲み歩いたと言われる。
豪快に夜の鹿児島を闊歩されながら、ある時、階段で酔って転倒されて、腕を骨折された。
スタッフさんにお店を任せられて、入院されることに。


病室には心配された男性たちの花の贈り物、それはすごい量だったと言われる。
「そんな男たちに私は言ってやりたかったんさ、店が大変な時なんだから、花より金が欲しいんだってね。気が利かないよ!」


そんな憎まれ口を言われながら、もしかしたら、嬉しくも思われたのではないだろうか。
こんなにファンがいるなら、まだまだいけると。
病室で、心細くなってしまうと、人生は少し寂しい方向にいってしまうもの。
苦しいときこそ、なにをくそ、と、前を向かれてきた。
結果、病室からもたくさんのお客様を、お店に送り込まれた。


そんな取材でお聞きした話は面白いながらも、私のような半端者の経営者には、深い学びがたくさん。
「40年も続いている秘訣は、なんだと思いますか?」
そんな月並みな質問にもしっかり答えていただいた。


「当時の旦那が作った借金があったから、それをなんとか返すために一生懸命やってきただけ。
そんなカフェするのが夢だとかなんとかって感じでやってるのとは、ちょっと違うかもよ。」


借金の期限や、資金繰りをみながら、お金を稼ぐために、夢中で頑張ってきた。
そして、人生も同時に謳歌された、たくさんの花に囲まれながら、白鳥のように、水面下ではおそらく必死に頑張ってこられた。
それが40年、とてもリアルなお声。


そして、今がすごく楽しい、そうも言われる。
前述の柳井さんや孫さんみたいに、パワーがありあまっておられるよう。


昨年にご契約いただいた際には、お店をやられながらアイスランドに行かれてましたが、先日はコロンビアに行かれたと聞く。
いつかサクラダファミリアやマチュピチュが見たいと言ってる人とは、やや住まれるている世界が違う。
おそらくオーナーなら行きたいと思ったら、すぐに行ってしまいそうだ。

常に今をフットワーク軽く生きることが、この元気、覇気の秘訣なのでしょう。
40年続く理由は、オーナーの心意気、それに惚れたファンの方々にありました。

京都にもかつてはたくさんの老舗喫茶があったが、コロナの頃に外資やファンドに買われて、今はさらに売られたり、名前は残っていても、その魂は消えてしまっている。
しかし、ここにはオーナーの実があり、魂があった。


誰か人が入ってきたら、誰よりも早くドアの方を見られる。
さぁ、なになにさん、ここへいらっしゃい、いつもありがとうございます、また明日ね!そのおひとりおひとりにあわせた、マニュアル対応ではない、ことばのひとつひとつに、魂が宿っているような。


これはオーナーが書かれたもの、ひとつひとつに愛情がこもっている。
レンタルフォトやAIの作ったA看板にはないもの。
おそらくこれから最も不足していく何かが、この店にはまだいっぱい詰まっていた。

この世界はとても複雑になり、生き延びるのが難しくなってきているようにも感じる。
夢も宗教もなくなりつつあり、テック企業に操られ、支配される世界線すら見えて来る。


しかし、ここはどうでしょうか。
パソコンを広げている人より、楽しくお話しをしている人がたくさんおられる。


そして娘さんや若いスタッフさんがそれを引き継いでいかれること、そんな店がさらに何年も続いていくミラクルを、私たちも共に伴走できれば、こんな幸せなことはない。



文責・撮影:中小路 通(ダイイチデンシ株式会社)
2026年6月掲載