AGE of NOVO #002
コロンビア ナリーニョ ラウニオン ジョーカー
マイクロロット ウォッシュド[PDF]

5年前、友人が兵庫県、芦屋近くの高級住宅地、
苦楽園という場所に、コーヒーと珈琲豆専門店をOPENした。

オーナーとなる友人はショールームとして使わせてくれるということで、
弊社も焙煎機「NOVO MARKⅡ」を出資し、
OPENして3か月間ほど、要請を受けて土日などにヘルプにいったことがある。

オープンの2日程前。
メーカーとして焙煎機のレクチャーだけするつもりだった私に、
店頭で接客に立ち、オープニングスタッフの教育のために、
来るお客様に、豆をおススメするやり方を教えてほしい、とオーナーは言う。

そんなことやったことないわ、と思いながらも、
「任せてください」といつものように大見栄をきった。

オープン日は、真夏。

全く告知もしなかったのに、駅前の立地がよいせいか、
知り合いだけでなく、新規のお客様も来た。
いつの間にか用意されていた黒いエプロンを着させられた私も店頭に。

「いらっしゃいませ」

「あら、いっぱい豆があるんですね」

と、感じの良さそうなマダム。

「はい、スペシャルティコーヒーの専門店なんです」

ただのコーヒー屋ちゃうぞ、とキーワードを入れ込んだ。

「スペシャルティって、何ですの?」

「はい、これら全部、独特の香りを持つ、世界でも希少なコーヒーなんです。」

「いっぱいあるわねぇ、何かおススメはある?」

序盤に来た。ご購入のチャンスタイム。

しかしながら、出会って3分の人に、おススメの映画を言うのが難しいように、
その人の心を揺さぶるには、情報は不足している。
本来、おススメとは難しいものだ。
どうするのかと、背後にオーナーと、オープニングスタッフたちが固唾をのむ。


「あ、このウガンダの豆、どうですか?もう、ウガンダ!って顔されてるんで。」

「あはは、面白い!ウガンダ!では、それいただこうかしら。」

とマダムは言い、お買い上げ。

おおー、楽勝。簡単じゃないか。
やっぱり人は見かけで判断するしかない。




「あの、二度と、ああいう接客は、やめてください。」

戦場カメラマンのように、私にくぎをさすようにゆっくり、オーナーが言う。
せっかく来ていただいた、お客様に大変失礼ではないか、と。
真面目か、正論ばかり言いやがって、と思うが、オーナー様なので、仕方ない。


その後はしぶしぶ、
「普段はどういうコーヒーを飲んでおられますかぁ?」とまずお聞きし、
酸味が好きそうな人には、浅煎りのモカイルガチェフ、
苦みが好きな人には、深煎りのマンデリン、
ちょうど真ん中のものなら中煎りのグアテマラなど、
焙煎度にあわせておススメするようにした。
アマゾンで本買うと、似たような本を薦めるようなアレ。

こんなもん誰でもできるやんけ、とか思っていたら、
そういうのを教えてほしかった、と、
オーナーの機嫌も少しなおってきたようだ。良かった。

しかしながら、やる内に、だんだんとわかってきたこともある。

少しアグレッシブで好奇心が強そうな方は、浅煎りが好きな方が多い、
思慮深そうで、コンサバな方は深煎りがお好きな方が多い。
(代々のお金持ちが多い街、苦楽園は深煎りが好きな方が多かった)
その中間は中煎り。白黒あいまいな、日本人が最も好む煎り方かもしれない。

これらはもちろん傾向であり、経験値による個人差や、例外はある。
が、その方の持つ雰囲気、キャラクターも考慮にいれるとよりおススメしやすい。

しかし、中にはあまりご自分のことを語られない方もいる。
当然だ。通りすがりの出来たばかりのコーヒー屋相手に、
そんなべらべら自分のことは語ってくれない。
まだ信頼関係ができていないからだ。

まずは常連になってもらえないと、そんな情報はいっぱいくれないだろう。
おススメは?と聞かれているのは、要するに試されているのだ。

それを突破して、常連になってもらうための名刺代わりの一発が必要だろう、
レミオロメンの粉雪ばりのやつ。

名刺がわりはあれしかない、と浮かぶものが私の中にあった。
真夏に、粉雪のメロディーを思い出していたそんな時、
スタッフのKさんに、おススメしたいけど、
まだその人がよくわからない時はどうするのか聞かれた。
良い質問だ。

「そういうときは、コロンビアのナリーニョラウニオンを出してください。」

「え?」

「よくわからないときは、もう鉄板を出しましょう。
 このコロンビアのスペシャルティを出せば絶対に大丈夫、
 もう誰でもいける、いわばトランプのジョーカーですから。」




コーヒー産地としては世界で3位、
コーヒーで有名なコロンビアも、場所により実は様々、
珈琲よりオレンジに力をいれている場所もあれば、
山奥で麻薬をつくっているところもある。

しかし、このナリーニョはそんなコロンビアの中でも
とびっきりのコーヒーの名産地。
スターバックスとネスレがナリーニョのコーヒーを9割おさえて、
残りの1割も奪い合い、、、

そんな噂も飛び交うほど。


我々もスイスの専門商社ボルカフェからマイクロロットを毎年苦労してGETする。
それがコロンビアナリーニョラウニオン。

コロンビアの中でも標高が最も高い南部ナリーニョは、
朝は寒く、昼は赤道直下の太陽が照り付け、
そんな中、ラウニオン地区の零細農家が丁寧に珈琲を毎年作っている。
その苛烈な環境のテロワールが産んだ、
まさに、コロンビア最高峰のマイクロロットコーヒー。
和牛でいえば松坂牛か、神戸牛のシャトーブリアンだ。

これ以上の珈琲など、そんじょそこらにない。
それを店頭で焼きたてでお出しする。
ゲイシャみたいにバカみたいに高くもない。
自信を持っておススメしてよろしい、と。

いつも細かいことばかり言うオーナーも「確かに」というように、黙ってうなずいた。
そして、2か月たち、その店の売上ダントツ1位になっていたのはこのナリーニョ。

きっとメンバーがおススメしまくって、リピーターの反応がすこぶる良かったのだろう、
お店の売り上げもお客様の信頼を得たためか、目に見えてあがってきた。

そんなある日、
そのナリーニョラウニオンを購入して帰った若い女性客が、
60分ほどしてお店に戻ってこられた。


「あの、さきほど、こちらではじめて珈琲を買った者なんですけど…」

接客したのは私。


シャイそうな女性で、色々好みを聞くのが面倒だったので、ナリーニョをすぐ販売。
何かまずかったのだろうか、そろそろ失敗する頃あいと思ってたんだよなぁ。
豆なのに粉にしてしまったか、お釣りが少なかったか、愛想のひとつも言えなかったか、
などと様々な心当たりが、パトカーの上の回転灯のように赤く渦巻く。

「あの、おススメいただいた珈琲、本当に、驚くほど美味しかったです、
 あの、すぐに、お礼を言いにこないと、と、
 ひとことだけ、ありがとうございました。」というとそそくさと帰られた。

「びびったー!あれ、クレームのタイミングでしたよねー、めちゃ焦るわー」

と、横で聞いていた友人のオーナーを見ると、いつもは細かいことしか言わない彼が、
ちょっと感動したような顔、涙ぐんでいるようにみえた。

「あの僕、珈琲屋、やってよかったです。」


コロンビア ナリーニョ県 ラウニオン地区、誰の心にも深く刺さる逸品。


5年経った今も、自信をもってお届けできる、私たちの切り札のひとつ。
そんなマイクロロットにつけた名前は、JOKER。

苛烈な環境のコロンビアから生まれた、
JOKERの持つテロワールが、深く貴方の胸をうつと信じて。

文 中小路通(ダイイチデンシInc)


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