実はここ数か月間、密かに気になっていた事がある。
それは今年の春以降「アリクイ珈琲」というキーワードで
弊社のホームページに辿り着いている方の数がやけに多いこと。
「アリクイ珈琲」とは、
今年の春にNOVO MARKⅡをご購入いただき、
5月にオープンされたばかりのお店の名前。
既に知名度のあるお店ならまだしも、何故だろう。
TVにでも出られたのだろうか。
それともオーナーが元々有名な方だったのだろうか。
夏頃から徐々に気になりだし、
インスタを見てみると、営業は週に2日とのこと。
余計気になってしまった。
行けば何か理由がわかるはず。
でも少ない営業日に行けばきっと邪魔になる。
そんなこんなで訪問せずに迎えた10月。
例年通り、今年も出展しておりましたSCAJ(2024)。
毎年ブースにはNOVOを初めて見に来られる方の他に
全国のNOVOオーナーさまも数多く立ち寄ってくださる。
中にはお店の名刺を渡しに来てくださったオーナーさまも。
「NOVOを設置に来ていただいた際は
まだお店の名刺ができていなかったので」と。
そちらが今回ご登場の、アリクイ珈琲さま。
9月からは営業日を週4に増やされ、
ブースで御名刺をいただけたりもしたので、
これならもう行っても良いかなと、早速急行。
場所は千葉県松戸市、
都内からは江戸川を渡ればすぐ。
最寄りの松戸駅からは徒歩10分くらいの住宅街。
やや細めの道路で、きっと通り名は無い。
お店に入ると丁度焙煎の真っ最中。
先日はどうも~と、ご挨拶を済ませた私は、
まずはみなさんも気にされていることであろう
ユニークな店名の由来から尋ねてみた。
もしかしてお店にアリクイがいるのかな?とか、
家でアリクイを飼っておられるのかな?とか、
アリクイ似のオーナーさんなのかな?とか、
きっと色々お思いの事だろう。
「昔、池袋サンシャイン水族館のアリクイが脱走したんですけど
その時の記事に写っていたアリクイがかわいくて。笑」
とオーナーの今堀泰子さん。
飼ってるとか、アリクイ似ではなかった。
ググると平成17年と20年の二度にわたって
タエちゃんというアリクイが脱走したらしい。
(ちなみにどちらも施設内で無事保護されている)
トリッキー過ぎるご回答に面食らいながら、
あぁなるほど、それでアリクイ珈琲にされたんですね、と私。
・脱走したアリクイが可愛かったからアリクイ珈琲。
・脱走したアリクイが可愛かったからアリクイ珈琲。
・脱走したアリクイが可愛かったからアリクイ珈琲。
咄嗟に脳内で三回復唱してしまった私の目は
きっとチャフボトル内のチャフのように舞っていただろう。
お店、随分変わりましたよね、
焙煎機の設置の際はまだ何も無かったですよね、と、
自然と次の話題へ進める私。
「そうですね、このアリクイも張り子で作ったんです
新聞紙を丸めて麻の紐で縛ってノリ塗って、って」
ご器用ですね、売り物になるレベルですよ、美大卒とかですか?
「いえいえ全然、持ってみます?」今堀さん。
話題はアリクイにUターン。
「玄関のマットも特注でアリクイの背中の模様なんです」
他にもお店にはアリクイのロゴがいたるところにあり、
アリクイを愛されてることがとてもよく伝わる。
お店に入れば誰しもがその店名の通り、
「アリクイ」と「コーヒー」のお店と感じることだろう。
ただ、検索数が多い理由はまだ何も見えてこない。
続いてコーヒーについて聞いてみることに。
今堀さんは東ティモールのゴウララを、やや深煎り焙煎し、
それをアイスでいただくのが今のお気に入りらしい。
「これ、すっごく美味しいですよ、
お客様さまにもよくオススメしていて、
評判もとても良いですよ」と今堀さん。
こちらのお店では、試飲以外にカップでの提供は無く、
基本的には、焙煎した豆が並べられている。
「当初は注文毎に焙煎したいと思っていたんですけど、
お店が小さくて、席がつくれなかったんです。
だから焙煎中、立って待ってていただくのもアレかなって思って、
焙煎した豆を置くようになりました。
あと、ドリップバッグもせっせと作って並べています」
「そうそう、このドリップバッグを置いている棚も
はじめは一つだけだったんですが、
徐々に増えていって、今では3列になりました。
オープンしてまだ間も無いですが、
もう何度も買いに来てくださってるお客さまもおられるんです」
袋にスタンプを押す作業をしながら嬉しそうに語る今堀さん。
「こういったスタンプを押す作業とかって、
いわゆる裏作業、って言うんですかね、
やってみるまでは想像してませんでした。
これまでにお店をした経験とか全くなかったので、
オープンする前にはコーヒーのセミナーとか、
自営業の方にレジの事とか相談したりしていたのですが、
お釣りの用意とか、会計のシステムの事とか、
いざやってみると、色々やる事って多いんですね。
あはは。笑」
ご開業前は長年大手精密機器メーカーでお勤めだった今堀さん。
コーヒーはおろか、接客業をされるのもこれがはじめて。
未経験からお店をオープンされ、色々大変そうかと思いきや
一つ一つの作業を楽しみながらされているご様子。
そんな今堀さんにとって、コーヒーの自家焙煎店は
かねてからの「夢」だったのだろうか。
はじめられた経緯を尋ねてみる。
「世代的には終身雇用という意識の時代に入社したので
嫌でも辞めるという選択肢は持っておらず、
そもそもは定年まで続ける気で勤めてました。
でもその勤めていた会社は時代の変化にかなり疎くて、
昭和体質な部分が今でも色濃く残っていて、
女性の私にとっては良い職場とは思えず…
まぁ、いろいろ酷かったです。
そんな中でも妥協しながら働き続けてましたが
セカンドキャリアって言葉も世間で言われはじめて、
私のような世代でも会社を辞めていいのかな、って
徐々に思うようになりました」
「最終的に決めたのは、コロナ明けの時ですね、
コロナ当初はリモートワークで少し気は紛れてましたが、
それが五類になったとたん また毎日出社って事になって、
本当にもう時代にあってない会社だなと感じましたし、
これ以上、前の生活を続けるのは嫌だってなりましてね…
で、その頃丁度、早期退職で退職金UPになる制度があったので、
それを機に思い切って辞める事にしました。
でも辞めるのには勇気は要りましたよ、
安定を投げ出すという時には」
「で、辞めたあとには何かしないとと思ったわけですが、
もう人に雇われるのも、人を雇うのも嫌だと思っていたので
何か一人で出来る事をしようと考えました。
パン屋さんとか、カフェとかも考えたのですが、
朝が早かったり、売れ残ったら廃棄とかも嫌だなと。笑
でもコーヒー豆屋さんなら一人で出来そうかも…と」
「焙煎機は、まだNOVOを知らなかった時は
自分で操作するタイプのもので考えてましたので
色々焙煎機の見学とかはしてはいたのですが、
どれも一人でするのにはちょっと大変そうだなって。
何か良いのないかなって探していたらNOVOを見つけて、
これなら一人で出来るかもと思い、渋谷まで見学に行き、
実際に見てみたら、なんか本当に出来そうと思いました。
で、なんとかはじめられて 今 って感じですかね」と今堀さん。
脱サラは自由な時間や収入アップも見込める反面、
当然ながら仕事や責任は全て自身持ちとなる。
経験した事が無い様々な事務作業が発生したり、
安定した収入を得られるかどうかの不安もある。
そのプレッシャーから脱サラには二の足を踏む方も多いだろう。
それでも今堀さんは会社を辞めて、
NOVOで自家焙煎店をする道を選ばれた。
昭和体質の会社勤めで感じていたストレスから解放され、
日々を豊かに、幸せに過ごしたい、そう思って。
「会社員って、どんな日でも朝から会社に行って
毎日同じ顔に囲まれながら夜まで働くでしょ、
朝起きて天気が良い日には洗濯物を干したいし、
夕方には夕飯の用意をしたりしたい、
でも会社員では中々出来なかったりするでしょ、
今はワーク・ライフ・バランスってやつですかね、
お店は13:30〜16:30の営業にして、
毎日無理なくお店をしたいと思っています」
あぁ、それで当初は週2日の営業にされてたんですね。
「はい、でも空いてる日が少ないって結構お客さんに言われたので
9月から週4営業になりました。笑」と今堀さん。
今堀さんが今こうしてお店をされているのは
鼻息荒く収入アップを狙われたからではない。
何か特別に秘めた意気込みがあったわけでもない。
こちらのアリクイ珈琲さんは、
小さな店舗で時間を大切にしながら、
NOVOを活用されているお店。
NOVOの導入店様のスタイルは様々で、
カフェやレストランなど広い空間でされている方も、
店舗を持たずに自宅でネット販売だけの方もおられる。
“コーヒーは自由”
近頃このフレーズをよく見聞きする。
コーヒーを飲むことや楽しむことに、
形式やルールは一切無いという意味。
コーヒーという飲み物が持つ多様性、
楽しみ方における無限の選択肢、
さらにそれを通して感じられるリラックスや、
自己表現の自由性を表している言葉。
それは販売する側の立場になっても同じかもしれない。
訪問目的であった検索数の謎については、
ご本人さまもお心当たりナシで、ナゾのまま。
でも、池袋のアリクイ、タエちゃんのように、
昭和体質な会社から抜け出し、
自由を得た松戸のタイちゃんと話していると
それはもうどうでも良くなった。
コーヒーが自由をくれた。
そしてNOVOは、そのきっかけになれた。
その事が分かっただけで、
今日はもう十分だ。
写真・文責:東京支社/ラボセンター 高島
(ダイイチデンシ株式会社)
2024年10月掲載