先日、東京ビッグサイトの展示会で出展ブースに立っていると、
文京区でNOVO MARKⅡをご導入いただいているカフェ、
MIYANO-YUの店長 大里さんがやってこられた。

お会いするのは半年振りくらいだろうか、
近況などお聞かせいただきたいなと思った矢先、

「あのホームページの導入店紹介の一覧につかわれている写真、
 もうちょっと良いものに変えてもらえませんか?」とおっしゃられた。

NOVOを納品させていただいた際に
パパッと撮らせていただいた一枚だったが、
ちょっとお気に召されなかったらしい。


その場で確認してみると、
店内はまだ工事中の、少々雑な感じの一枚で、
確かに何か申し訳ない感じ。

早速撮り直しに行かせていただくお約束をする。

焙煎機の納品後、どのようなお店にされたのか、ずっと気になってはいたが、時節柄、不要不急のNOVO導入店舗様巡りは控え目にさせていただいていたので、丁度良い訪問理由ができた。


MIYANO-YUさんがお店を構えておられるのは、
東京都文京区根津。
都内でありながらも、下町風情が漂う、通称「谷根千」エリア。

「谷中」「根津」「千駄木」の、3つの地区の総称で、
国内外を問わず注目を浴びている、人気の観光地。

いつも大勢の人で賑わっている場所。

とはいえ、
NOVOを設置させていただいたのは 2020年12月25日。

年末年始はステイホームを徹底し、忘年会や新年会、
会食などは控えましょうと、都知事が訴えていた頃。

そして年が明けた1月8日からは、2度目の緊急事態宣言発令。

とてもハードな時期にオープンされたお店だった。



CAFE & MORE MIYANO-YU

少し変わったこちらの店名は、
元々この地で1951年に開業された「宮の湯」という銭湯だった建物を
リノベーションされたところからきている。

外にある大きな煙突も、その時の名残。

店名と外観だけでなく、店内にも銭湯時代の面影が残されつつ、
新たなアイデアも数多く取り入れられた、とてもユニークな空間が広がる。


入ってすぐに目を引くのは、そう、
真っ白な我らの焙煎機 NOVO MARKⅡ。

と、言いたいところだが、

同じくらいインパクトがあるのが、
カウンター下の、履物入れ。

現在はコーヒーカップ等がディスプレイされているそれは、
銭湯時代には数多くの人が利用されてきたのだろう。
その風合いから深い歴史を感じる。

子供の頃、好きなプロ野球選手の背番号と同じ番号の札を探していた事をふと思い出す、
ノスタルジー感。

かつての銭湯 宮の湯は、惜しまれつつも2007年に閉業されたらしく、その当時のものが、カフェとなった今もこうして見続けられていることは、地域の方々に喜ばれているらしい。

なんとなくその気持ち、分かるような気がする。


さらに奥に進むと、壁側のカウンター席と、小上がりのお座敷空間が広がる。



小上がりは靴のまま上がってOK。
少し天井が低いので、やや頭を下げて進む。

琉球畳が敷かれた右壁側の座席と、
左側には足をブラ~ンと伸ばすことができる、
とてもユニークなテーブル席。

秘密基地のようなワンパク感を楽しめる。


(こんな感じで)

その足をブラ~ンと伸ばせる席の下(地下)には、元々ボイラー室があったそうで、
当時の雰囲気をかなり残したまま、現在は個室の客席として使用されている。

「地下はちょっと暗いので好き嫌いが分かれる感じなのですが」と、ご案内をいただく。


ここまで爽やかなムードだった店内が一転、
やけに暗い。

階段を降りる前から 暗い。

どこかア-ティスティックな廃墟感。

「TV番組のクレイジージャーニーとかに出てきそうな雰囲気ですね」、とか言いそうになったが、
私にしては珍しく、余計なことは挟まずに進む。

こちらの写真は明るさを加工して見易くしている。
実際は、もうちょっと暗い。

天井や、ボイラーの蓋みたいなものを薄灯りの中で見ていると
海外ドラマ「24」で、主人公のジャックバウアーが、
テロの組織に捕らわれているシーンを思い出した。

だが、掲載していた写真の件で負い目を感じている今日の私は、
しっかりと心にブレーキがかかっているらしく、
「すごいですね~」と、当たり障りのない言葉を地下室に響かせていた。

実際、お邪魔している最中にも、一人の女性客が、
地下でも座敷でもお好きな方の席でどうぞ、と案内をされ、
その女性は地下に降りて行かれたが、すぐに戻ってこられ、
足ブラ~ン席の方に座り直されていた。

大里さんがおっしゃるように
そこそこ好き嫌いが分かれそうなムードの地下室だが、
この独特のムードは他では感じられるものではないので、
一度は体験してみる価値があると思う。

好きな方にはきっとドハマりする事だろう。




確か当初は、この地下室にNOVO MARKⅡを設置される予定でしたよね。

「あ、そうでしたね、今はあの入口の場所にしてよかったと思っています。
 NOVO置いてから、あの場所で魅せれてよかったと、実感しています。

 沢山の方が見て行ってくれていますし、
 小さなお子さんなども、興味深々で見てくれています。

 焙煎中の豆を見ることは中々出来ないことですので、
 こうして魅せることが出来て良かったです。

 偶然なのか何なのか、
 入口の幅とあまりにピッタリ過ぎて、少し驚いていましたけど。笑」

確かに通路を邪魔しない位置にフィットしている。




当然ながら、MIYANO-YUさんのコダワリは建物だけではない。

コーヒーには、より一層強いコダワリをもっておられる。

それは、自分達で焙煎して、ちゃんとしたエスプレッソを作ること。

大里さんは、ここMIYANO-YUをはじめられる前から、浅草のカフェで店長をされておられ、
その際、オーストリアやニュージーランドから来られた外国人観光客の方々から、
「ニッポンのエスプレッソはオイシクナイ」という言葉をしばしば聞かれていたらしい。

その経験から、本場の方々も満足する本物のエスプレッソを提供するお店として、
ここ、MIYANO-YUさんはオープンされた。

自家焙煎で焙煎度合いを管理し、焙煎後の鮮度管理も徹底、
そして、本格的な8種類のエスプレッソを提供されている。

エスプレッソ、マキアート、ピッコロラテ
フラットホワイト、カフェラテ、カプチーノ
アメリカ―ノ、ロングブラック

自家焙煎店の多くはハンドドリップで出すお店が多い中、
エスプレッソメインで勝負をされるお店は珍しい。


そのエスプレッソに使う珈琲豆は、勿論NOVO MARKⅡで焙煎をされたものなのだが、
その焙煎プログラムは、既存のものよりも、かなり細かく調整されている。

一般的に、コーヒー豆の焙煎度合い(深度)は、8段階。

ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアン

NOVO MARKⅡには、その中から、使用頻度の高い5深度を、
100g刻みで、100g用~1kg用までの計50モードを、予め搭載している。

100g-1(シナモン)、100g-2(ハイ)、100g-3(シティ)、100g-4(フルシティ)、100g-5(フレンチ)、といった感じで。



それがこちら、MIYANO-YUさんでは、既存の5深度に加え、
さらに0.25刻みの焙煎プログラムを独自に追加されており、
より細かく焙煎度合いを選べるようにカスタムされている。

■100g用焙煎プログラム MIYANO-YU バージョン
100g-1、100g-1.25、100g-1.5、100g-1.75、100g-2
100g-2、100g-2.25、100g-2.5、100g-2.75、100g-3
100g-3、100g-3.25、100g-3.5、100g-3.75、100g-4
100g-4、100g-4.25、100g-4.5、100g-4.75、100g-5

つまり、100g用のプログラムだけでも、20パターンの焙煎モードから選べるようにされている。


(ざっとこんなイメージです)

豆毎に焙煎度合いの僅かな違いによる風味の変化を研究され、
今のこの設定にカスタムされたらしい。


NOVOは、既存のプログラムの編集は勿論、
新たにプログラムを追加することも出来る。

1度の焙煎を10工程に分け、その各工程毎に、
温度は1℃刻みで、風量は1%刻みで、時間は1秒刻みで
簡単に入力することが可能。

MIYANO-YUさんはそこを上手くご活用され、焙煎プログラムを細分化、また、焙煎後の時間経過による風味の変化もしっかりと研究をされ、それぞれにベストのタイミングを見つけ出された。

つまり、お店で出される1杯のエスプレッソには、拘りがギッシリと詰まっている。

「焙煎豆を買って帰られる場合には、風味の変化も含めてお楽しみいただければと思いますが、
 こちらのお店でお出しする1杯は、最もベストな状態のものだけを選んで抽出していますので、
 ウチ飲みでは再現出来ないものをお出ししています」と、大里さん。

折角なのでオススメを1杯いただくことに。

店長のオススメは、フラットホワイト。

綺麗なスワンを描いていただいた。

さぁいただこうかとカップに手を伸ばしたその時、
さっとカウンターの中に入られたオーナーの鳥海さんが、
「アイスエスプレッソもオススメだよ、飲んでってよ、ウチのは美味いからさ」と、
シャカシャカシャカとシェイカーを振りはじめられた。

その姿を見た大里店長は
「オーナーがカウンターの中にいるのレアですよ、
 自分が飲む時以外は全然作らない方だから。笑」 と。

それはなんだかとても有難い感じ。

淹れていただいたフラットホワイトは少しの間お預けで、
鳥海オーナーにシェイクしていただいたアイスプレッソの出来上がりを待だせていただく。


そして並んだ、2つのオススメ。

銭湯には血流をよくするための「温冷交互浴」という入浴方法があるが、
まるでそれのコーヒー版のような状況に。

有難く冷温一気に楽しませていただいた。


風味はもちろん、ottimo。


こちらは、気軽にウチ飲みコーヒーをはじめていただきたいという思いの込められた、
COFFEE@HOME という、MIYANO-YUさんのスローガン。

自宅に抽出器具をお持ちで無い方にとって、ミルやドリッパー等は、
どこか敷居の高い道具だと感じている方が多いよう。

良くも悪くもコーヒーにはウンチクが多い。その結果、
一歩目を踏み出せない方は、きっと沢山おられることだろう。

MIYANO-YUさんでは、ウチ飲みをはじめてみたい方々の切欠になれればと、
豆選びから抽出器具まで、何でも相談にのっておられるそう。


もっと身近に、気軽に、そして簡単にコーヒーを楽しんで欲しい、
そんな想いからか、店内に並べられたドリッパーは、
小さくコンパクトに畳めるポップなものをセレクトされている。




コーヒー豆(粉)、ドリッパー、ペーパーがセットになった、
まるで、コーヒーのスターターキットのようなギフトパックも、
この夏より発売開始。


(早速法人から大口のオーダーも入っているらしい)


また、ハンドドリップの器具だけではなく、
コーヒー粉とお湯を注ぐだけで誰にでも簡単に抽出ができるSteepShotなども
近々お店で販売を開始される。


(圧力で珈琲がプッシャーと出る面白い抽出器具 SteepShot )

コロナが落ち着き、観光客がまた戻ってくれば、
きっとお土産として買って帰る人も沢山いるだろう。


本来、根津は、国内や海外からの観光客が多いエリア。
こちらに出店されるにあたっては、もちろん観光客をターゲットにされていた。

そして、エスプレッソ以外に、コーヒーを使ったカクテル等も
メニューとして出される予定だった。

それがこのコロナ禍によって、観光客はいなくなり、
アルコール類の提供には制限がかかり、予定通りにはいかない事態となった。

だが、大里店長は今日までのことを、このように話された。

「確かに大変な時期にオープンをしましたが、
 それらが全て悪いことばかりではなかったです。

 観光客の方はいなくなりましたが、代わりに、
 この辺りにお住まいの方々が、日中に出歩かれるようになりましたので、
 この地域の方々の事を、よく知ることができました。

 こちらの地域のみなさんはとても温かくて、
 近くに美味しい珈琲屋さんができたよって、
 知らないところでご紹介をしてくださってたり、
 周りの方々に助けられていることを実感しました。

 まだここでは一度も通常営業をしたことが無いのですが、
 それでもこうして続けてこられたのは、
 地域の方々が支えてくださったおかげです。

 改めて地域の方々に愛されることの大切さを強く感じましたし、
 その事に気付けて、逆にいい状況だったかもしれません」と。


逆境は真実への第一歩、 とは、
事実は小説より奇なり でお馴染み、バイロンの名言。

困難な状況の中、支えてくれた地域の人々とのふれあいこそが
きっとこれから先もずっと、一番大切なものになるのだろう。

帰り際、お店を出て振り返ると、銭湯のロゴが描かれた 暖簾が揺れた。

またここで どっぷりと浸かろう。

こだわりの詰まった、コーヒーの香りに。

CAFE&MORE MIYANO-YU
写真・文責:東京支社/ラボセンター 高島
(ダイイチデンシ株式会社)
2021年6月掲載


2024年2月追記

2024年1月に3周年を迎えられ、同建物内の女湯があった浴室スペースを増床され、新たな装いでリニューアルオープンされたとのご連絡をいただいたので、お邪魔してきました。

増床された新スペースは、壁面のタイルや蛇口などは銭湯時代のものをそのままに、沢山の植物が置かれ、唯一無二の和風亜熱帯風なカフェに。

そもそもMIYANO-YUさんは他に類を見ないタイプのお店でしたが、今回のリニューアルによってさらに突き抜けた空間に仕上げられていました。(地下室は現在クローズされています)

お邪魔した際、お客さんが数組おられたので写真は控えめですが、こちらに少し載せておきます。