NOVOオリジナルマイクロロットシリーズ第四弾
AGE of NOVO #004
INDIA POABS SEVENTH HEAVEN WASHED
インド ポアブス農園 セブンスヘヴン ウォッシュド[PDF]
テロワールという言葉がある。
フランス語で土地を意味するTerreから派生した、その土地の地理や地勢、気候による特徴を指すフランス語。つまり数多の農産物は、たとえ同じ品種でも土地が変われば、土壌に気候、地形や農業技術が変わるので、テロワール、味わいや香りも変わる、ワイン用語としてよく使われるが、もちろんコーヒー豆にもあてはまる。
フランス語でいえば大抵サマになる。及川光博のような微笑で「産地はコロンビアのナリーニョか、テロワールが独特だよね」なんて言えば、モテるかもしれない。友達は減るだろう。
さて、弊社の重要パートナー、スイス本社、世界三位の珈琲生豆専門商社、ボルカフェの日本法人の社長、広池氏はよく「テロワール」と言われる。たしかにちょっとモテてる感じが、しなくもない。
氏は「テロワールは土地だけじゃない」と言われる。「もう少し広義に考えると、人も含むと思うんですよ」と。その土地に住む人の性格や暮らしぶり、農園主のこだわりもテロワール。もし農園のオーナーがすぐにでも、実ってきた珈琲をお金にしたいというような経営状況なら、早熟な珈琲の実をつみ、精製も短く、出荷してしまい、自然、味わいも変わる。そういう意味あいと。
インドに独特なテロワールの、大規模農園がある。
ボルカフェからそんなことを聞いたのはおよそ7年前。
弊社がボルカフェ社との独特なご縁から、NOVOオーナー様のためだけに生豆販売を開始した2年目のこと。
ボルカフェはタンカーやコンテナ単位で購入されるような量のビジネスをメインにされていたが、その頃はコーヒーサードウェーブ到来、多品種小ロットの時代にもなり、弊社のような多品種小ロットにピッタリくる焙煎機を作っているメーカーが生豆も扱いだしたと、そんな将来性を買っていただき、世界でも選りすぐりのスペシャルティコーヒーを、数トンほどの単位から、最小では麻袋単位のロット数でも売っていただけることとなった。
そんな2013年、当時のご担当のH氏は言う。
「インドとは思えない、もうコスタリカ、独特の香りですよ。」
H氏の独特の表現、心をつかまれた。
確かに、インドはスペシャルティコーヒーというより、
むしろスペシャルなティー、紅茶やチャイのイメージ。
「オーナーは元々、セメント屋さんだったんです。」
とはH氏の横のボス、広池社長。
世界一どうでもいい情報かと思ったが、
先日、ちょうどインドのその農園に視察にも行ってこられたという。
社長なのに、フットワークが軽い、アグレッシブだ。
「まるで、森の中におとぎ話にあるような別世界、また行きたい、そんな不思議な魅力がありました。」
写真をもらった。
「農園に乳牛がいるというのが重要なポイントだそうで。その糞尿を堆肥、有機肥料にして、オーガニックで美味しいものができるそうです。」
たしかに、これはリアルな、どうぶつの森。
そこでは農園内に畜産場に漁場、野菜畑も保有し、自給自足。珈琲だけでなく、紅茶なども栽培し、動物たちとの共生、循環、サスティナブルをテーマに農園をしているという。栽培している従業員さんのための学校、スクールバス、教会や寺までもあり、オーナーのファッションじゃない本気度がうかがえる。
サスティナブル。
各国でのSDG’sの取り組みなど、今では全世界の流行語のようにもなったこの言葉、
その意味は、持続可能な社会を目指す。
平たく言えば、無理しないで、長くやろうぜ、というような意味合いだろうか。
そして後日、ナチュラルで精製されたサンプルを飲んでみて、驚いた。
酸味はまるでなく、ぶどうジュースみたいな柔らかい甘み。
さらに、深煎りすると、それがまるでチョコレートみたいな香り。
えらくキャッチーなその味、大人気の珈琲かと思いきや、H氏いわく独特すぎて、昔からの珈琲会社さんには特に、独特の香りを欠点ともとらえられ、販売に苦戦していると正直にいわれる。これはむしろ面白い。すぐにご契約をさせていただいた。
そして、今年で7年目。
予想をはるかに超える売れ行きに、インド政府から表彰されるんじゃない?などと、軽口をたたくうち、弊社のスペシャルティコーヒーのラインナップでも1位2位を争う、ベストセラーアイテムとなっていた。
現在では、7年前よりどんどん洗練され、その分、ややワイルドさは減り、おとなしい趣きとなったが、芳醇な香りと味わいは進化し、その分、価格も少しずつ高くなっていったが、常に適正価格と思わせる、安定のラインナップとなっている。
インドの珈琲とは思えないクオリティ、とよく言われる。が、実はインドは、珈琲の生産国としても世界5位から8位あたりを行ったり来たりと栽培は盛ん、その歴史も長い。1695年、イスラム教徒のババブータンというインド人が、聖地メッカ(サウジアラビア)に巡礼の際、七粒の珈琲生豆を、当時持ち出し厳禁とされていた、イエメンのイスラム寺院から盗んできて、インドに珈琲を伝えた有名な逸話がある。とんだ巡礼である。
彼が伝播させたのはインドの南部、マイソールという海辺。ポアブス農園もあるケララ州。イエメンから盗まれた豆が、南インドのテロワールを得たわけである。
そして1988年。ポアブス農園のオーナーは、イギリスのインド入植のころからこの地、セータルグンディで半ば放置されていた農園の経営に着手、ポアブス社の社是である、社会福祉の理念を胸に、そこで働いていた労働者をそのまま雇用し、大変ユニークな珈琲栽培を始める。
それは「ビオダイナミック農法」というバルカン半島で生まれ、ドイツを中心に活動した思想家、ルドルフ・シュタイナーが提唱した、ビオワインの栽培に今でもよく使われる、循環型の有機農法。コーヒーでとりいれているのはここポアブス農園だけのようだ。
基本は外部から肥料を持ち込むのをよしとせず、農場の中の生態系で有機肥料とする。
そのうえで特に特徴的なのは、太陰暦や占星術に基づき、天体、月の満ち欠けの周期にあわせた「農業暦」で、栽培をする。
月の満ち欠けや星占いと聞くと、ちょっとスピリチュアルな感じもする。
「天体の周期にあわせると、どんないいことがあるんですか?」と、広池氏に聞いた。
「そりゃまぁ…美味しくなるんちゃいます?」
「・・・・」
「いや、それだけね、人智をこえたような知恵と、手がかかって、愛情がこもっている証じゃないですか、ケララは、アーユルヴェーダの本場ですし、うん、この農園の持つ、テロワールですね」
出た、テロワール。
まぁ、今日はこの辺にしといたるわ。
実は7年の間に一度、大きな会社さんがその年のポアブスの珈琲のほぼ全数を買われたことにより、弊社ラインナップ上で、中断があった。その時は今後も、もう入ってこないといわれて大きく失望した。
限りある農作物、仕方ないこととはいえ、愛着がすっかりついた、そして何よりせっかくのポアブスファンのオーナー様の信頼をも裏切る、弊社にとっては大ダメージであった。
しかし、奇跡は起きた。その大きなボルカフェのクライアントさんが、翌年以降は何故かひとつも契約をされなかったとの情報を受け、再びボルカフェ社からオファーを得ることができ、大復活。その分をすべて受け継いだのは言うまでもない。
今度こそは、安易に途切れさせるわけにいかない。
無くしてわかる有難み、それらをひしと感じながら、2020年からは、NOVOオーナー様のための専用ロット、AGE of NOVOシリーズとしてポアブス農園のニュークロップを作っていただいた。
そのロットの名前は「セブンスヘブン」。
インドの7粒の伝説と、天体を見ながら作るビオダイナミック農法に敬意を表して。
そしてもう一度、専用ロットづくりに奔走いただいたボルカフェ、広池社長にポアブス農園の話を聞きにいった。スペシャルティコーヒーづくりをさらに進化させているとも聞き、その情報をさらにアップデートしたくて。
もちろん相変わらず、ビオダイナミック。オーガニックで、天体の満ち欠けをみながら栽培、その証でもある、とても取得が難しいDemeter認証も取得。JAS認証はもちろんだ。
インドは珈琲栽培の歴史の中で、さび病の被害が大きかったこともあって、隣国のスリランカのように、紅茶栽培に大きく流れた農家も多かったと聞く、そんなインドで、無農薬、オーガニックで育てるのは、怖くないのだろうか。
広池氏は言う。
「オーガニックといっても、ただ無農薬なだけではおっしゃられるように怖いですよ。でもポアブスでは、さび病に負けない、強い木に育てる、そんな有機農法を一生懸命にやられている。それの結晶が、ビオダイナミック農法ですよ。」
7年前に聞いたときより、説得力があった。
おそらく、私の感度、アンテナが当時は足りなかったのだろう。
そしてもうひとつ、面白いエピソードを教えてもらった。
「実は7年前、貴社にポアブスを初めて販売した時のタイミングですね。農園にいったとき、ポアブスのオーナー、トーマスが、白紙でオファーしてきたんです。好きな金額をいれてくれって。」
「どういうことですか?」
「サスティナブルな、無理のない関係を、ボルカフェと長く築きたい、だからミスター広池、無理じゃない価格を、私たちのために書いてくれ、そう言ってきたんです」
「なるほど、じゃあちょうど私たちはお得な価格で買えたんですね。」
「いや…そう言われるとね、実は違うんですよ。トーマスに、試された気がしたんです。お前は将来、無茶をいうやつなのか、どうなのかとね。結果、適正価格で買いました。あとで大きな会社さんとの契約が長く続かなかったことを考えると、もっとボリュームディスカウントを商社として利かせるべき局面だったのかもしれません」
話は続く。
「しかし、私はむしろよかったと思います。そのポアブスのオーナーとの信頼関係が実って、今はこうして、ダイイチデンシさんに専用ロットまで作っていただき、NOVOオーナーさんに販売される。NOVOオーナーさんひとつひとつの購入量はさほど多くはないかもしれませんが、その数はもう何百店舗です。大きな1社さんに無理して買い続けていただくより、無理がない。本当にサスティナブルな関係に実りました。」
本当にサスティナブル。
大量生産、大量消費の時代は終わった、と世界三位の専門商社の日本のトップが言われるのは深みがあった。
土地だけじゃない、その土地に関わる人もテロワール。
広池氏がそういわれる意味も、7年もたつと、わかってきた気がする。
さらに私は思う。
そのテロワールには、もう少し人の拡大解釈もあるのではないかと。
その土地の人、農園主、従業員の方々はもちろんだが、
そこに通う専門商社、そして我々が販売させていただくNOVOオーナー様、そしてそのオーナー様の店で、毎年収穫を楽しみにしていただくお客様。
そのすべてのひとたちも、広義のテロワールに含まれるのではないだろうか。
手と手をとってできた、循環のサークルが、そのテロワールを醸し出す。
コーヒー豆は農作物、毎年、味が変わる。
大手の会社のバイヤーさんは通常、定番商品になりにくいと、それを嫌うかもしれない。
しかし、私たちはそれを嫌わない。
毎年、味が変わるのは、
それは日々の気候や環境に適応し、人々が、日々成長し、挑戦し、生きている証。
そこには毎年にアップデートされる物語が、ロマンがある。
7粒から始まった、天体の動きを見ながら作る。毎年、味が変わる珈琲。
SEVENTH HEAVEN。
最高の気分、コンビニの珈琲じゃあ、ないんだぜ。
取材ご協力:広池社長 (ボルカフェ)
インド ポアブス農園 セブンスヘヴン ウォッシュド [PDF]
[農園名] ポアブス・エステート(POABS)社、
セータルグンディ(Seethargundy)農園
[所在地] インド南西部、ケララ州北部、ネリヤンパティ丘陵
[標高] 900~1250m
[精製方法] ウォッシュド
[品種] S9
[認証] JAS認証、Demeter認証 (=バイオダイナミック農法)
[収穫期] 11月初旬から1月末
[収穫方法] 赤実を4回に分けて手摘み