アメリカ西海岸。
北の港町、ポートランドは、コーヒーサードウェーブの発信源。
ポートランド発祥のスペシャルティコーヒーを発信する店が多く、
現代のコーヒーの聖地のひとつとも言えるだろう。
今年2020年は、SCA(スペシャルティコーヒーアソシエーション)主催の
「Coffee Expo」の開催地でもある。
私のポートランドの印象はというと…
オシャレで気のいい店がいっぱい並ぶ、そんな印象。
まぁ要するに、軽く、行ったことはない。
コーヒー関係者の割に呑気な私に比べると、
ピンとアンテナを張ったコーヒーやレストラン関係者はかの地を訪れ、
その文化を吸収されたようだ。
そのせいか、2014年のブルーボトル以降、
ポートランドにあるような、サードウェーブ系の店がいっとき、
東京や京都を中心に、雨後のタピオカ店のように増えた。
目利きのオーナー、デザイナー、カフェプロデューサーが、
メッカを目指す使徒のように、ポートランドを目指されたと聞く。
サードウェーブコーヒーの総本山へ。
アメリカ人に味なんかわかるかいと鎖国するより、きっと見てためになる。
刺激的な店も多いことだろう。
実は私も昨年、NYではあるが、ポートランド発祥で有名な、
サードウェーブのBIG3とも言われる(らしい)伝説の店、
「スタンプタウン」には訪れたことがある。
「ブルーボトル」などはもはやネスレ傘下になったり、
多くのサードウェーブを牽引した銘店は巨大資本に買収されているが、
まだ残っているという意味でも伝説の店だろう。
デザインはオシャレ、まさに日本に多くあるような店のネタ元を見た気分。
サードウェーブ界の、ビートルズみたいな。
コーヒーはまずまず、ただ総本山と呼ぶには大したことはなかったが、
刺激的だったのはその淹れ方。
私がオーダーしたドリップコーヒーを、
派手なホットパンツの女性がハンドドリップしてくれたが、
そのハンドドリップの途中にカウンター内に入ってきた
8マイルのエミネムみたいな男性と、
ハイファイブ。
そのまま… ホットパンツは、休憩に入ったようだ。
しばらく放置されていた私のコーヒーのドリッパーに、
8マイルが花壇に水をやるようにジャンジャンとお湯を注ぎ、
「ヘイ、トール!ユー?」とそのハンドドリップを出してくれた。
「ニッボンのサードウェーブ野郎が、
憧れてるのは、オマエらバカ野郎。
ニッボンのマニュアル野郎が、
温度、時間、量、挽きめ、計測。
バカ真面目にドリップしてるの、
ユー知ってるのか?」
と言いたくなったが…韻を踏むのも難しく、
「サ、サンキュー」とひとこと。
NYではまた異なるサードウェーブの店にも行ったが、
全く、同じような体験をした。
もちろんポートランドの本場ではこのようなことはないかもしれない。
しかし、デザインやブランディングなどは凄いが、
ソフト… スタッフの意識はもしかしたら、
渋谷や、心斎橋にあるカフェ、ロースタリーでも
全く負けていないかもしれない。
そんなことも思わせる、
大阪の心斎橋。南船場。
オシャレなカフェが乱立するこの地域に、
新しく出来たコーヒーロースタリーカフェの名前は、
「B portland coffee roastery」さん。
ポートランドというキーワードで、
忘れていたアメリカでの体験が頭をよぎる。
経営されている会社はサクラブルーコーボレーション様。
失礼ながらお名前を存じなかった私に、
あ、パンケーキで当てられた会社さんじゃない?
心斎橋で働く、私の知人はそう教えてくれた。
2021年には、W HOTELというマリオット系のセレブホテルが立つ予定地の真横、
心斎橋の一等地の目立つ場所のビル1棟を丸ごと借り上げ、
サクラブルービルディングとして営業所ごと移転してこられた、
めきめき成長されている会社さん。
階上に事務所と、レシピの開発などにキッチンルーム、
そして玄関となる一階に開かれるロースタリーカフェに
弊社製焙煎機「NOVO MARKⅡ」を導入いただき、
2019年12月3日にOPENされた。
焙煎機は一台だけと思いきや、納期が遅れること一か月で、
もう一台、アメリカ製のデートリッヒの大きな焙煎機もいれられた。
もちろん焙煎機以外にも最新鋭のクラフトビールのサーバーや、
エスプレッソマシン、グラインダーと、お店の顔ともなるような設備がずらり。
そんなドンドン投資されていくこのロースタリーカフェの責任者は、ナカシマさん。
一見自信に溢れる気鋭のリーダー。その落ち着きとは裏腹に、まだ20代と言われる。
オープンされてからは休めといっても休まないので、
強制的に休ませたとスタッフの方は言う。クールにみえて情熱的。
ハンドドリップ中に休憩に出てしまうニューヨーカーたちとはちょっと違うようだ。
そんなナカシマさんのお休み明けにこの記事の取材をさせていただけることに。
オープンされて一か月経たれてからの感想をナカシマさんに聞いてみた。
「そうですね、コーヒー豆もよく出てますよ。
まだ、さすがに焙煎機は二台いらないぐらいですけど…笑。
常連さんも出来てきて、コーヒー好きのファンの方も、
おかげさまで日に日に増えているんです。」
いきなり、力強いお言葉。
じつはカフェだらけのイメージの心斎橋でも、
長堀通りの南はカフェや焙煎機のあるコーヒー専門店は多いけれど、
こちら北側はレストランはいっぱいあるのに、
ロースタリーカフェは意外とないそう。
コンビニコーヒーよりこちらの方が絶対にいいと、
ご近所の人にも喜んでいただいているようだ。
「特にこの焙煎機の評判は上々ですよ、
お店に来るお客様へのスペシャルティコーヒーは
ほとんどNOVOで焙煎してますから」と
嬉しいお言葉。
「会社の別部門で経営しているパンケーキ店用のブレンドや、
卸の豆をデートリッヒでと考えているので、
今は卸はまだ全然ないのでNOVOばかり使っています、
使い方も簡単ですし、何よりお客様に焙煎のアピールできますから。」
店頭でお客様の五感に、味で、香りで、見た目でアピールできるのは、NOVOの真骨頂。
アメリカ勢のデートリッヒに負けてないことが証明できたようで、ホッとひといきだ。
「そういえば、こちらの店名ですけど、ポートランドに思い入れがあられるんですか?」
アメリカといえばと…、
気になっていたことをお聞きした。
「はい、オーナーがポートランドの街並み、風土や珈琲が好きで、
それでポートランドみたいなロースタリーを、大阪でやりたい、そんな由来なんです。」
と、ナカシマさん。
「なるほどなるほど…。ただ、実は僕はポートランドに行ったことはないんです」
知ったかぶりの限界が来る前に、正直に申し上げることにした。
ポートピアならあるんですけど…とモジモジしている私に、先方のナカシマさんも、
実は、私もないんです。と爽やかに言われる。
多分、他のメンバーもそうじゃないでしょうか、と。
「実は私は、LAVAZZAという北イタリア、
トリノ発祥のエスプレッソのブランドに日本で出会い衝撃を受けて以来、
イタリアの食文化に魅せられた1人でして、
ちょっとポートランドとは遠いところの食文化なんですよね。
新婚旅行もナポリに行きましたし、笑。」
その後、様々な職種を経験され、大阪のイタリアンの大変有名な銘店で
ドルチェを任される重要なポジションでより経験積まれたのち、
縁があられた、こちらサクラブルーコーボレーションさんに入られた。
その後、パンケーキのお店を経て、この新しいコーヒー事業のリーダーに。
「イタリアでの食文化を学んだ経験をと思ったら、ポートランドでしたが…笑。
でも良い経験をさせていただいてます。
大好きなコーヒーを、ずっとやりたいと思っていたので、とても嬉しいですね」
確かに…好きなこと、やりたいこと、学ばれたこと、そんな仕事のリーダーを任される、
こんな舞台は人生でなかなかないかもしれない。
休みなんか要らないという気持ちが、とても伝わってきた。
「ただひとつ、全くのど素人だったのが、コーヒーの焙煎なんです。」
普通なら諦めて焙煎豆を買うところだが、
ポートランドというキーワードもあり、焙煎機は外せない。
そこで…とある方に監修をお願いされた。
それは「北浜ポート焙煎所」のオーナー、高橋さん。
弊社のNOVOのオーナーさまで、大阪では、カフェの専門学校の講師をされていたり、
有名なコーヒー人の一人。
そんな高橋さんからコーヒーのことを、焙煎から教わられながら、
自然に、NOVOを導入すれば、オープン時から最高のコーヒーを出せるということを知られた。
普通なら高橋さんはそんなことを教えず、自分の焙煎した豆を売りつけることだろう。
しかし、高橋さんは普通ではない。
弊社からマージンを取るなどということも一切なく、良いものとして薦めていただける。
最近、大阪でウチのマシン、売れてきたなーと自画自賛していたが…なんのことはない、
大阪で有名な高橋さんに聞いたという方が、ご購入された中でとても多かった。
あまり他人にNOVOの事を教えたくないと言われることも多いNOVOオーナーさん
(その気持ちもよくわかります)も多い中、高橋さん様々、もはや神である。
私を高橋さんに紹介してくれた方を思い出すと、人生は不思議な縁がもつれ合う。
良いニュースは、本人も知らないところで、広がっているという。
誰かが、誰かのことを静かに推薦してくれている。チャンスは無限大だ。
さて、北浜から心斎橋に…時を戻そう。
取材しながら改めて、お店を見ると、素晴らしくおしゃれ。
特に光の使われ方が絶妙で、温かい雰囲気。
今までパンケーキの店を展開されてきたご経験も大きいだろう。
クールな打ちっぱなし感の強い、よくあるサードウェーブ風とは一線を画している。
そして、最も特徴的なのはその接客。
お店に入ってこられたときから、笑顔で自然に迎えていただける。
決して、マニュアル的ではなく、各メンバーさんが、
友達が来たときのように、自然な感じに。
「焙煎機があるようなカフェは、ちょっと敷居が高いですよね」とナカシマさん。
「そこが、ぼくたちには少し違和感があって、気軽に入れるロースタリーカフェにしたい、
そんな雰囲気がオーナーの言うポートランドかなって、僕は思うんです。想像ですけど、笑
ラフだけど、アンテナを貼った面白いひとが多いのはここ南船場も、
ポートランドには負けてない、むしろ上だと思います。」
「確かに!絶対、負けてないですよね!」
ポートランドに行ったことないふたり、
根拠のない、満面のニッコリ。
昨今の飲食店は特に、人材不足。しかし、そんな中、ナカシマさんは
オープニングメンバーの採用のとき、応募が200名を超えたといわれる。
さすがカフェを開かれるにあたり、ビルごと購入され、事務所ごと移転された会社さん。
オシャレな店で最先端の機材を使って、お客様を楽しく迎える、
そんなカフェロースタリー、たしかに入りたくなる。店名もオシャレ。
そういや会社名も何故、さくらなのにブルーなんだろう…
私も店の名前をつけられたオーナーさんに会いたくなってきた。
最も魅力的なところは、ナカシマさんのように実力が伴えば、
若くても、大きな仕事のリーダーを任せられることだろう。
「今は、実はもう毎日が不安なんですけど、
やるしかないと挑戦できる環境は、やりがいしかないです」と、ナカシマさん。
素晴らしい。
最後に、この店の強みを、ナカシマさんに聞いてみた。
ちょっと今までの内容を、整理してみよう。
・最新鋭の焙煎機を2機。
・最高のスペシャルティコーヒー中心の生豆。
・イタリアンの銘店仕込みの、食文化のご経験。
・20年の高橋さんの北浜メソッドが入った珈琲ノウハウ。
・おしゃれかつ暖かく彩られた店内。
・来年への発展も楽しみな、最高の立地。
・営業所が同じビルにあるため、管理とサポート体制もバッチリ。
・成長戦略を邁進するオーナー。
そう、この店は、思いつく限り、強みがありすぎる。
ナカシマさんは何というだろう。
「そうですね、やっぱり強みは人ですかね。最高に面白い、
個性的な仲間がいて、そして挑戦させてくれるオーナーがいますから。」
人は石垣、人は城。武田信玄か。
私が20代のころには、絶対に言えない。
いや私の人生ではまだ言ったことがない。
少年ジャンプの主人公が言うようなセリフをサラっと。
素晴らしいひとことだ。
そんなリーダーが率いる、心斎橋の超フレンドリーなロースタリー。
ハンドドリップをするスタッフさんの目は、
物凄く真剣だ。
マニュアルが過ぎない分、
ちょっとずつ、人により味が変わっているが、別にいいかもしれない。
途中から淹れる人が変わっている店を見たあとでは、
私の基準もボヤけてきたようだ。
マニュアルのない接客をこなす、全員が異なる個性のあるスタッフさん。
しかし、コーヒーへの学びの姿勢は、みなさん超前傾姿勢。
そして、みなさんで出口まで送っていただいた。
ポートランドに負けない文化の発信は、もう始まっている。
不安なことは何もない、前途は洋洋だ。
B portland coffee roastery
文責・撮影 中小路通(ダイイチデンシ株式会社)
2020年3月掲載