熊本のタクシードライバーは、よく話す人が多い。

目的地に着く頃には、
ドライバーさんの家族構成まで知ってしまうことに。

今回もタクシーで。
伺ったのは、福岡と熊本の県境にある、
「PIZZERIA AVENTO」さん。

目玉は、焼きたてのピッツァと、焼きたてのコーヒー。

オーナーさんにお聞きすると、
OPENされてより、連日、予約がいっぱいで、
お客さんの追加オーダーに対応している内に、
ピッツァの生地がなくなり、途中で売り切れてしまうこともあるとか。

当初はもちろん、ディナータイムも計画されていたのだが、
まだその熱狂の途中、要するに早々に売り切れてしまうため、
まだ、ランチタイムの営業だけしか対応できないとのこと。
すごい。

夜に行く予定を変更して、その翌日のお昼にお伺いすることに。
最寄り駅は、福岡の大牟田駅、もしくは熊本の荒尾駅。

天神駅から西鉄で、終点の大牟田駅。
そこからタクシーに。

熊本はマイカーがないと、
レンタカーか、タクシーしか選択肢がない。

そして、今回のドライバーさんも、よく話す人だった。

「大牟田は、炭鉱の街でね、昔は凄かった。
 でも今は何もない。若い人も働くところがないから、
 あっても15万もらえれば、ラッキーな感じよ。
 だから、みんな若いのは都会に行くんだね。」

「そうなんですね、でも今から行くお店のオーナーさんは、
 まだ若い方ですよ、眼鏡橋近くの、ピザ屋さんなんです。」

「ピザ!さすが、若い人の食べ物だね、
 俺なんかもう70歳越えてるから、全く、ワカンねぇよ!」

ピザって若者の食べ物だったのか、、、
と思いながら、町中から、のどかな山間部を超える。
駅からタクシーで、15分ほど。

突然、おしゃれな建物が出現した。

「なんだこれ、車もいーっぱい、
 こんなところに、人が…すごいね」

よく話す老タクシー運転手もびっくり。
そこには、中目黒か自由ヶ丘にありそうなお店が、
ポツンとあった。

当初聞いてた予定より一年ほど、
工事が遅れられていたが、
細部までこだわられた、そんなお店の登場だ。

福岡側から見たら、ピッツアの看板。

熊本側で見たら、コーヒーの看板。

ここはちょうど県境、住所は熊本県荒尾市になる。

入るとほぼ満席の店内に、
カウンターにポツンと一つ、予約のプレート。

「お待ちしてました、どうぞ!」

と、スタッフの方、
奥を見るとピザ窯の前でオーナーさんが笑顔。

ピザ窯の目の前の、
特等席にご案内していただいた。

吉本新喜劇の小藪がピザ好きで有名らしく、
「ピザ初心者は、マルゲリータか、マリナーラ以外食うなカスが!」
とテレビで言ってたのを思い出し、
初心者らしく「マルゲリータ」を注文。

確かにいきなりビスマルクとか、
クアトロフォルマッジに蜂蜜をつけて食べるなどは、
はしゃぎ過ぎというものだ。

しかし、モッツァレラチーズが、近くの農場で取れた、
普通のマルゲリータとは違う、特別仕様のマルゲリータにした。
京都から来たので、これぐらいはいいだろう。

オーナーさんもそれを見て、
「さすが、一番食べて欲しかったやつです」と、笑顔。

ピザ窯の前で、お一人で、黙々と生地をこねられ、
具材を乗せられ、ピッツアを焼かれている。
イタリアでも有数のピザ窯職人、
ステファノ・ フェッラーラ氏の薪窯を取り寄せられたとのこと。

実は私は、初めての海外旅行はナポリ。

そして先月はピッツァの本場イタリア、
そしてチーズの本場のスイスでも、ピッツァを食べている。
美味しい本場のピッツァも、結構知ってはいる。

しかし、熊本と福岡の山の中でいただいたピッツァは、
そのどれよりも美味しかった。

特に生地が餅ばりに、もちもち。
たまにピッツァの端の方だけ残す人がいるが、
ここでは、ちょっと考えられない。

そしてモッツアレラチーズも、ちょっと食べたことないレベル。
これは、お客さんだからと、お愛想を言っているわけではない。

連日、予約がいっぱいなのも頷ける。

(注:この文章はピザ窯屋の社長ブログではありません)

まさか、こんなすごいピッツェリアになっているなんて。
オープンしてすぐで、圧倒的なパフォーマンス。

「完璧っすね」

と言うと、オーナーからは今日一番の笑顔をいただいた。

デザートは、そういやコーヒー関係者であったことを思い出し、
アフォガートと、ホットコーヒーをいただいた。
もちろん、圧倒的な美味しさである。

東京にも美味しいピッツェリアはあるが、
食後のコーヒーまで、完璧な店などない。

気づくと、ご注文で忙しいはずのオーナーが、
心配そうな顔で、私がコーヒーを飲むのを見られている。

「コーヒー、どうですか?」

「完璧っす。」

と言うと、心からホッとされた笑顔をいただいた。


笑顔のバリエーションが多い方だ。
スタッフの方も若い方がほとんどで、
忙しい中、何やら楽しそう。

隣のお客さん2人は、ピザをそれぞれ1枚、ペロリと食べられた後、
デリバリー用に、さらに一つ頼まれていた。
ご家族用にも持ち帰られるのだろう。

最後の一滴を、飲み干す頃、
オーナーが弊社の特集のテレビ番組がきっかけで、
京都の会社までご家族で足を運ばれ、
何故、弊社の焙煎機を購入いただいたのかわかった。


地元で、ど真ん中に美味しいものを。
こだわって、最高のものを出し続けたい。
ナポリまで窯を買いに行くような方が、
最後のコーヒーまでこだわられたのは、むしろ当然かもしれない。

「そんなところに店なんか、大丈夫かねぇ」

と、行き先を告げたときに、タクシー運転手さんは言った。

が、働く場所を自ら作り、若いメンバーの雇用も創られた。
本当に素晴らしいことだと思う。
ただイオンモールに行くだけでは、味気ない。
地元の文化を作るような、そんな店を作られた。


きっとこの勢いだと、
こんな素敵な場所が、2店舗、3店舗と増えて行くだろう。

帰りのタクシーを呼んで、
オーナーさんとスタッフさんに送られて、店を出た。

帰りのタクシーのドライバーも、私にすぐ話しかけてきた。

「こんなところまで、タクシーで、ピザ食べに来たんですか?」

「ええ、京都からきました」

と言うと、天然記念物でも見たと言う顔をされた。

「はぁ、こんな何もないところに、変わった人もおるんやねぇ」

「他にない店ですから。熊本、最高ですね。」

と言うと、少し嬉しそうな顔をされた。
そして、また話が始まった。

田舎で聞く長話は、実があって、人生があって、
楽しい帰り道になった。

昔は、何も無い都会にただ憧れた。
それはまるで、
アパレル会社が作ったレストランみたい。

しかしここには、ファッションで終わらない、本物があった。
素晴らしい町、店、人。
そんな一部に選んでいただいて、
今後、長く使っていただけるなんて、最高に光栄だ。

文責・撮影:中小路通(ダイイチデンシ株式会社)
2018年9月掲載