名古屋屈指の繁華街、栄。
70年の歴史を持つ、老舗のコーヒー会社さん。
その本社にあるお店に、NOVOが納品された。
ご購入いただいたのは、
創業1948年。
名古屋のコーヒー界を、
まさに戦後から引っ張ってこられた、
「富士コーヒー株式会社」様。
最近は、「珈琲元年」という
新形態の直営のお店も運営されているが、
今回は、本社ビルの一階にて同じく運営されている、
「カフェセレージャ」さんに、
オープンされて20年目のリニューアル時に導入いただいた。
一方、
「ポチッと押すだけで、焙煎なんて出来るわけがない」
などと、心無い焙煎士の方々に言われ続けて7年目。
そんな弊社製の新型焙煎機「NOVO MARKⅡ」も、
200台の大台が見え、
70年の歴史を持つ、ロースターさんが導入されるまで来たかと、
小生も、感無量であります。
(5分経過)
さて、国税庁の調査によると、
10年残る会社は、たったの6~7%と言われる。
つまり、93%から94%は何かの理由で、なくなってしまう。
一般的に企業の寿命は30年と呼ばれ、
30年残る確率は、0.02%。
1万社中、たったの2社。
そんな中、70年。
おそらく奇跡ともいうべき、確率だろう。
飲食店・カフェであれば、もっとその数字は厳しくなる。
開業3年で、7割は潰れてしまうという。
最近でこそ、空前のコーヒーブーム、
サードウェイブということで賑わいを見せて来たが、
スターバックス、UCC、ブルーボトル、
ドトール、%アラビカ、セブンイレブン、、
ビッグネームが跋扈する中、
昔ながらの喫茶店は、全盛期の半分とも言われる。
そんな中、富士コーヒーさんでは、
新規開業のコンサルタントもされている。
今回、導入いただいた店舗様に取材記事を、というお話で、
リニューアルされて3週間後にお伺いさせていただいたが、
本当の目的は、
コーヒー店を70年も続けておられる秘訣を知りたいため、
である。
弊社も最近は、焙煎機を販売するだけでなく、
新規オープンまでのちょっとした開業支援も無料で実施している。
ここは70年の大先輩に、サクッと秘訣を教えていただき、
後日、まるで自分が言ったかの様に、
人に言いまくってやろうではないか、ムフフ。
と、台風一過の名古屋に降り立った。
「今回、何故、NOVO MARKⅡをご購入いただいたのですか?」
とお聞きすると、
「少量多品種の時代に答えるためです。」
とはコーヒー業界35年のHさん。
所謂、セカンドウェーブから、サードウェーブも経験されている。
「店頭で、好みをお聞きして、その場で焙煎できますしね。
ほら、ハワイコナもパナマのゲイシャも、
NOVOを入れて、この店のラインナップに復活したんです。」
「あ、なるほど。確かに工場の大きな焙煎機より、
小回りが効いて、鮮度もあって、いいですね」
などと言いながらも、今回の肝はそんなところではない。
長年、コーヒー店、挽き売り店、その支援も続けられている、
そんなミラクルな強みを、発見したい。
話をお聞きしながら、横目で店内をチラ見。
朝10:30の開店。
「午前中はそんなお客さんもいないし、ちょうどいいですね」
と10:30より取材させていただいた。
開店とともに一人のお客様。
Hさんのご対応を見ると、どうやら常連様の様。
真っ先に麻袋のコーナーに行かれて、
麻袋をご購入…いきなり麻袋が売れるお店も珍しい。
次も常連様の様だ。
コーヒー2つオーダーされて、奥の席へ。
全てハンドドリップした、シングルオリジンを含む、
こちらのボードの全種全てが、180円。
焙煎したてのため、目の前で、コーヒーの粉が膨らむ。
もちろん抜群の味。
コストパフォーマンス抜群の一杯だ。
「でもコンビニが100円ですからね、
そんな安いってほどでもないですよ。
豆によっては、たまに赤字ですけどね。」
とHさんはそう言って、、、笑う。
「嘘をつかないでください!赤字で、70年もつわけないでしょう!」
といきなりテンションMAXになっては、
プロの取材者とは言えない。
まぁ。そういや、プロではないが。
冷静に見ると、カフェと言われながらも、
ここの稼ぎどころは、コーヒー豆の販売なのだろう。
席はカウンターの6席ほどのみ。
手前は、焙煎機と生豆と、商品の物販のコーナーだ。
販売されている豆は、
高くはないが、決して安売りはされていない。
適正価格。
NOVOを導入していただいて、復活した高級ライン。
いかに高級品でも売れ残りのものでは、価値はない。
もちろん、こちらでは焙煎したてをご提供。
ドリップバッグも種類が豊富。
物販では、カリタのウェーブドリッパーが主流。
「素人さんでも、美味しく入れやすい」とはHさん談。
朝は、常連さんばかりの様だ。
コーヒーをオーダーされ、奥に座られる方。
手前でコーヒー豆の説明を聞かれている方。
みなさん、自然な感じでふらっと入ってこられて、
スタッフさんも自然な感じで、応対されている。
今のところ、そんなにミラクルは無い。
奥のお客様が、カウンターに置いてある、
有名な落語家の方が書かれた、
「コーヒー小噺」の本を興味深く見られていた。
「これって、面白いね、売り物なの?」とお客さんが聞いてこられた。
「あ、これは売ってないんです。」とはHさん。
「だから…差し上げますよ」
え!180円のコーヒーのお客さんに、
新刷の本をプレゼントされている。
「あ、そう、ありがとう。じゃあまたね」
と自然に帰られるお客さん。
その瞬間、何かが、フラッシュバックした。
今年2月。
こちらも創業65年のコーヒーの生豆商社さんからのご紹介で、
名古屋の中川工場に初めてお伺いした時のこと。
「全自動?誰でも焙煎できる?焙煎はそんな甘いもんじゃ無いよ」
と頭ごなしに言われたらどうしよう、と内心ドキドキで行った私に、
社長さんはじめ、Hさん、焙煎のリーダーの方に、暖かく迎えていただき、
大変、面白い焙煎機と、高く評価いただいたこと。
春には、東京ビッグサイトの展示会に来ていただき、
8月にオープンだからよろしく、と自然にご購入いただいた。
8月初め。
納品に訪れた際は、社長、社長のお母様、
重鎮のスタッフの方、焙煎士の方々、8名ほどで、
真剣に、時に楽しく、1人でふらり納品に行った私を迎えていただき、
焙煎機のレクチャーをさせていただいた。
富士コーヒーさんのHPに書かれている、
3代目の社長さんのご挨拶文。
それほど、特別なことは書かれていない。
半世紀どころか、70年経っているじゃないか、と思ったぐらいだ。
特別なことは、これら社長の想いを、
スタッフ方お一人一人が実践されていることだ。
安らぎのブレンド
活力のブレンド、
と書かれたブレンド名は、
決しておしゃれなソレではないが、
そんな70年の、日々の歴史が詰まっていた。
取材の最後に、Hさんに
「35年やられて来て、何か面白かったエピソードあります?」
とお聞きした。
きっと何か、面白い歴史があるはずだ。
「そうですね、この前のリニューアルオープンで、
パナマのエスメラルダのゲイシャを180円でご提供したんです」
確か昔、スターバックスが1杯2000円で売ってたやつ。
それを180円。よく考えると無茶苦茶な話だ。
「それを、ふらりご夫婦で入ってこられた旦那さんが飲まれて、
美味しすぎると、豆を買っていこうとされたんですが、
奥さんがブレンドでええやないの、と店内で大ゲンカされたんですよ。
結局、奥様が折れて、買って帰られましたが、面白かったですねぇ。」
めちゃめちゃ最近の話だ。
70年続く秘訣は、身もふたもない事実。
毎日毎日、一人一人のお客様と、
しっかり向きあって、自然に、楽しくやっていくことだろう。
最近は、カフェや喫茶店の方からの問い合わせも多く、
自家焙煎の波が押し寄せて来たから、
説明に来て欲しいと言われることもある。
そんなとき、稀に、
呼ばれて行ったのに、立ち話。
水の一杯も出してくれないときは、ちょっと不安になる。
たとえ、このお店に弊社の製品が入ったとて、
何にもならないだろう、そう思ってしまうから。
帰り際に、Hさんが私に、
「これから京都に戻られるんですか?」
と聞かれた。
「これからは西宮の苦楽園という所に納品なんですよ」
「じゃあ新神戸ですか、
さっきのお客さんが欲しいって持って行かれた、
落語家さん、三遊亭圓窓さんのコーヒー小噺の本、
もう1冊あるんで、よかったら差し上げます。
新幹線で、読んでくださいね。」
コーヒーを使った、70年目の人たらし。
サクッと学ぶには、
焙煎したての、エスメラルダの香りばりに、甘い考えだったようだ。
おあとがよろしいようで。
文責・撮影:中小路通(ダイイチデンシ株式会社)
2018年9月掲載