「鹿児島の人はね、
 あまり自宅でコーヒーを淹れて飲まないんですよ。」

鹿児島市、東谷山にある「Blue Bird Coffee」の店主、
春田さんは言う。

出て来たコーヒーは、ファイヤーキングのコーヒーカップ、
エチオピア、アビシニアのスペシャルティコーヒー。激ウマ。

こんな最高級とも言えるコーヒーを、
こだわりのコーヒー店に、だけではない。
例えば、街の美容院さんなどにも安く卸をしておられるようだ。

「最初のきっかけ作りは、儲け度外視でもいい。
 鹿児島の人に、知って欲しいんです、
 こんなコーヒーもあるんだって。」

東京の都心では、小難しい顔して抽れたドリップ一杯
(ブラジルNo.2)で1000円むしりとる。
そんな店のマスターが聞けば
なんと青いことを言うやつだと、笑っちゃうだろう。

東京では失われた青い鳥、それは、ここ南端の店にいた。

冒頭で春田さんが仰られた通り、
鹿児島では、一人当たりのコーヒー消費量は、
47都道府県中、46位。
(1位は京都で、47位は静岡。2016年調べ)

ただ、鹿児島にあるキーコーヒーやタリーズ、
スターバックス、といった大手チェーン店は
他の地域の同じ店より鹿児島の店の売り上げは良いらしい。

元々コーヒーに興味が薄い県民性なので、
大手の名前の知れてるところで、となリ、
あれがコーヒー、で思考が止まっているからでは、と言われる。

そんなところで、春田さんはご夫婦で、
スペシャルティコーヒーのお店を出された。
それも、代官山とかにありそうな、趣味が良い、おしゃれな店。
しかし、隣はピザハット。

そして、オープンして二年目に入り、自家焙煎に踏み切ろうと、
最先端のものをとリサーチされて、
私共の焙煎機のサイトに辿り着かれた。

最初、
お問い合わせいただいた時のメールにあった言葉を思い出す。

「可能な限り貴社の焙煎機を購入したいと考えております。」

まっすぐな人だ。
そういえば、鹿児島からのお問い合わせは初めてだったかも。

そして、何度もご質問をいただき、試飲をいただき、
価値を理解いただいて、この秋に導入いただいた。
私共でも初の鹿児島のお客様。
そして今は、鹿児島随一のコーヒー専門店と注目もされている。

しかし、ここは代官山でも自由ヶ丘でもない。
スペシャルティと聞いて、紅茶と間違う人も普通にいるだろう。
その投資が回収される日は、いつになるのか。

「でも、焙煎機を入れてからは、皆、ここで飲むんでなくて、
 豆を買うようになったよね?」

春田さんが奥様に聞かれる。

「うん、そうだね」

スコーンと紅茶をディスプレイされている奥様が
静かに同意される。

「家で毎日、コーヒーを気軽に楽しめるって伝わって来て、
 新鮮なコーヒーってこんな美味しいんだってなって、
 常連さんはここでは、飲まなくなったね」と言われる。

そういえば、来たときに男性がコーヒーの袋を小脇に抱えて、
幸せそうな顔で、車で出て行かれた。

「自家焙煎ってことで
 珍しがって来ていただけることもあるんですが、
 そんなお客さんも、生豆を見られるのが初めてだったり、
 それが5分ぐらいで焙煎されて行くまで、見れるって、
 もうみんな釘付けですよ」

嬉しそうに話す春田さん、
本当に嬉しいことを言っていただける。

「5年もすれば、
 鹿児島にもコーヒーの文化、根付くと思いますよ。
 NOVOのおかげで、焙煎は安定してますし。
 日々、鹿児島のお客さんと向き合って、発信していれば、
 自然と、ここで一番有名なコーヒーブランドに
 なってると思います」

春田さんは、青さが先走る、意識高い系の青年ではなかった。
ご夫婦で、地元にしっかり腰を吸えられている。

紅茶があるのも、主婦の方が周囲に多く、
コーヒーが苦手な方にと、紅茶と、
カフェインレスコーヒーも置かれている。

鹿児島の、
ちょっと山田孝之似の、スペシャルティコーヒーの伝道師。
そんなお客さんに買ってもらえて、とても幸せだ。

今年、2017年の流行語は「インスタ映え」らしい。
美味しそうに見えることが重要で、
本当に美味しいかどうかは、割とどうでもいい時代。

昔、島田紳助が、面白いかどうかじゃなくて、
面白そうと審査員に思わせた奴が、
M-1をとると言ってたのを思い出す。

しかし、流行語みたいに、
スキャンダルで消えた芸能人みたいに、
それらはひととき注目され、
時代とともにいなくなる。

しかし、この場所はきっと無くならない。
そう思わせるのは、店主の心意気。

中煎りと浅煎りが中心、
鹿児島で美味しいスペシャルティコーヒーを広める、
そんな使命感をヒシヒシ感じる。
そして、そんなものを出せているという穏やかな自信。

最初はSNSで、ふと入られたお客さんにも、
味の好みを押し付けずに、
豆や焙煎を、お客さんの好みに合わせて提供される。
通ってるうちにお客さんの方でも好みが変わってくる。
そんな日々は、とても楽しそうだ。

インスタ映えがなんじゃい、とも思う。
そんな店にはきっと、
写真には映らない美しさが、あるから。リンダリンダ。

文責・撮影 中小路通(ダイイチデンシ株式会社)
2017年12月 掲載