山形県 鶴岡市。

こちらには、

日本におそらく1店舗しかないようなコーヒー店がある。

使われているコーヒーは2種類のみ。

「ハワイコナ エクストラファンシー ラングスティン農園」

「ハワイコナ エクストラファンシー コナスター農園」

コーヒーの中では、超高級品として知られる、ハワイコナ 。

その最上級と上級グレードの、
エクストラファンシーかファンシー。

それもオーナーが買い付けに行く
単一農園のシングルオリジンだ。

ワインで言えば、5大シャトーとか、
オーパスワンみたいな、
馬鹿高い赤ワインみたいな感じ。

しかも、コーヒー生豆の買い付けは、容易ではない。

こだわりのロースターといえど、
実際ほとんどの店は商社経由での買い付けだろう。

それを毎年、農園に行かれてのダイレクトトレードだ。

聞くうちに、いったいそれはいくらだと…高そうである。

スターバックスリザーブなら運が良くて1000円、

悪ければ2000円は取りそうだ。

 

しかし、ここ「808Mountain」では、
こだわりのそれが600円。

ちょっと安すぎる気がする。

オーナーは、都会で稼ぎに稼いで、今はゆっくり田舎に住む、
悠々自適な人か何かと思われるだろうか。

出会いは、もう4年前。

山形から焙煎機のお問い合わせを頂き、
夏に鶴岡市に行ったときのこと。

当時は焙煎機の営業状況は、いまほど芳しくなく、
社内は停滞ムード。

その状況をなんとか打破しようと、人生で初めて、
京都から山形県まで足を踏み入れた。

超・何もなさそうな旧城下町、地元の物産が並ぶような施設。

そこに突然、長瀬智也が帰省でもしてるような、
ナイスガイが現れた。

「この前まで、ハワイにいて、山形に帰って来て、
 今、特に何もやってないんすけど、
 珈琲豆屋をやりたいんです。

 まずは家に焙煎機買って、豆をネットで売りたいんですよね
 そして、いつかはカフェをやります。
 で、20年もいたんで、ハワイの豆しか使いたくないんです」

「はぁ」

山形のイメージとはかけ離れた人と思っていたら、
なるほど、ハワイか。

しかし、当時は超がつくほど高額なハワイコナの豆、
害虫の被害もあり、入手困難を通り越し、
日本の市場には皆無であった。

あるのはおよそ偽物だけか、
もしあったとしても、昔の在庫品、バカ高く、
商売にはならない。

そのことを言い、豆はウチが卸すので、他の国のを、、と、
さっさと焙煎機のクロージングに入ろうかと思うと、
のちのオーナーの山田氏はこう言った。

「ハワイだけでやりたいっす、豆は向こうにあると思うんで」

私「いや、輸入とか、個人では超面倒ですよ、もしあっても。」

「じゃあ、ハワイ行きませんか?
 豆、一緒に買い付けに行きましょう。アハハ。」

とんだスットコドッコイだ。

資金繰りも厳しい中、わざわざ山形まで来たのに、
大外れではないか。

ガックシとうなだれて京都に帰るところである。

しかし、スットコドッコイなら、私もエリート中のエリート。

負けるわけには行かない。

京都から山形も、
関空からハワイもかかる時間は一緒じゃないか。

ハワイまでついて行って、
焙煎機も買ってもらおうじゃねーか。

「わかりました。いつ行きますか?」

「来月アタマっすかねぇ」

長瀬智也風の、山田氏はキラッと、そう言った。

初対面で、あって1時間足らずの人と
一緒にハワイに行くことにするとは、
なんともノーテンキな話。

弊社のメンバーも、

「山形まで営業行ったと思ったら、今度はハワイ?
 バカじゃねーの?」

そう思ったに違いない。

(のちにアンケートを取ると、
 多くのメンバーがそう思ったという)

しかし、後で考えると二人とも大マジだった。

そんな旅は、結局、最高に盛り上がり、
そして山田さんは、ハワイに20年いたパイプを生かし、
当時日本ではどこの商社にも全く無かった、
前述のエクストラファンシーをトン単位で購入。

「この人、やるじゃん」とか思っていると、
そして翌月に、ご自宅に焙煎機もお買い上げいただいた。
ハワイ帰りで、ゆるい人かと思っていたら、全然違う。

そして秋にご自宅に納品に行くと、
山田さんのお母様が出てこられ、一言。

「ウチのバカ、大丈夫ですかね…
 社長さん、どうかよろしくお願いします」と。

 

そして、その日は鶴岡に泊まることになり、
夜、山田さんは近くの山に月食を見に友人と出かけ、
軽装のため山にいけなかった私は、
山田さんのお母さんとその友人で、
自宅で月食をみるパーティになった。

なかなかない体験に、これが意気投合してしまう。

駅前のホテルのロータリーまで送ってくれたお母さんは、
私に何度も手を振られた。

「ウチのバカ息子、頼むよ」と。

月のなくなった夜。

あっ、と気づいたことがある。

 

1台無事に売れた、とホッとしているようだから、
焙煎機もそんなに売れないのである。

売ってから、成功したもらって初めて、
良いマシンだと口コミが生まれる。

まだ自宅に焙煎機を入れられただけ、
こちらでは、今からが始まりだ。

将来、カフェを開かれるその日まで、
しっかりおつきあいしようと、
鶴岡で決心した。

その後、一緒に弊社の展示会に出ていただいたり、
私たちの焙煎機と一緒に、
808MountainのPRもするようになった。

出ていただいた展示会はおそらく5回ほど。

そのあとは、
焙煎機のプロモーションヴィデオに出ていただいたり、
ともに成長させていただいた。

 

そして今。

 

「808Mountain」は、Yahooショッピングのサイトでも
「ハワイコナ」ではダントツ一位の売り上げを築かれている。

そしてそれらの売り上げ・全国からの顧客を原資にして、
昨年の夏、8月8日に宿願のハワイをテーマにした
ロースタリーカフェを地元・鶴岡市に開かれた。

(808はハワイ州の市外局番。)

一見、ふざけているように見える人は、実は驚くほど真面目。

4年経った私の教訓である。

(その逆も然り)

そして、昨年の秋、鶴岡にはおそらく4回目の訪問、
何もない道路の中、突然現れたバカでかいカフェを見ながら、
様々な思いが、フラッシュバックした。

ハワイで焙煎を学ばれて、
熱風式でしかハワイコナの豆はうまくできないと、
ハワイの焙煎士の教えを忠実に、
そしてこだわり抜いて、ウチのマシンを選ばれたこと。

輸入を慣れられた今も、通常は船で運ぶはずの豆を、
劣化がイヤだと、馬鹿高い運賃で空輸を選択されていること。

ホームページは自分の手で、自分の思いを乗せたいと、
友達のカメラマンと一緒にハワイコナから撮影されたこと。

コナ島のコテージで、
ハワイで過ごされた今までの人生を一旦リセットして、
山形で一念発起、
コーヒー屋さんを始められたいと言われたこと。

ハンドドリップにもこだわり、
そして、エスプレッソマシンはスレイヤー。

ラテにもこだわり、
納得いくものが出来るまでカフェを開かれなかったこと。

そして焙煎機のプログラムも、ハワイコナに合う数値で、
完全オリジナルのものに仕上げられたこと。

振り返れば、楽しい思い出もある。

ハワイでの最終日、飛行機に乗り遅れそうになり、
空港に滑り込んだり、
展示会の帰り、歌舞伎町の焼肉屋で、飲んだり騒いだり、
大阪の南港のスタジオで、朝から晩までの撮影で、
ワイワイ盛り上がったこと。

ハワイコナの農園の帰りに見た、大きな夕陽。

ちょっと青春を一緒に過ごしたような。

 

そして、いつしか、
私たちのロースターも日本でも知名度が上がって、
昨年は店頭に置く焙煎機では、ベストセラーの域に達して来た。

鶴岡の街を一緒に歩くと、今や彼はちょっと、有名人のようだ。

いろんな人が彼の店を知っていた。

しかし、彼の母は心配されたままのようだ。

「ウチのバカは、大丈夫なんですか?社長さん。
 これからもほんと、お願いしますよ」

808Mountain

808とは、ハワイ州の市外局番のことで、
ハワイ帰りの焙煎士が、最高の一杯をだす。

今ではまるで自分が作ったブランドのように、
人に紹介してしまう。

きっと山田さんも、
NOVOのことをそう紹介してくれているのだろう。

まるでこのプロモーション動画みたいに。

文責・撮影 中小路通(ダイイチデンシ株式会社)

2018年1月掲載

(焙煎機は NOVO MARKⅡからα NOVOに入れ替えされました。2022年5月)