子供の頃、毎年お年玉を図書券でくれる親戚がいた。
私はその親戚の事が、少し苦手だった。

「バカなあなたはもっと本を読みなさい」

何か毎年こう思われているような気がして。

私はソッコーで貰った図書券を握りしめ、
コロコロコミックと、お釣りで駄菓子も買ってやろうと、
近所の商店街へダッシュで出かけていたので
まぁ本当に賢くは無かった。


すると本屋さんで、図書券ではお釣りは出せない、と言われ、
漫画と駄菓子を買うぞ計画は、一瞬で崩壊。

200円分ほど損をする事になるので、買わずに立ち読みをしていると、
店のおばちゃんに掃除用のハタキでシッシッ!と追い払われ、
図書券を握りしめたまま、家へと帰った。

その後、成長して行動範囲が広くなると、
そこはもう絶対に行かない本屋と、私の中ではなっていた。


それから20数年ほど経った頃、家の近くに
スターバックスとTSUTAYAが合体したお店がオープンした。

そこでは、店内でスタバのコーヒーを飲みながら
ツタヤで売られている本を買わずに自由に読んでOK。

ハタキで追い払うどころか、ウエルカム。

まだその頃は「売り場に椅子がある本屋」というだけでも
そこそこ話題になっていた時代だったように憶えている。

これまで体験したことがないスタイルと、自身の過去の経験から
当時ちょっと心がザワザワした記憶がある。


ブックカフェという言葉を私が初めて耳にしたのは多分この時。

今思えば既にこの頃から、オンラインの書店や電子書籍が
徐々に幅を利かせはじめていたのかもしれない。

2000年以降、書店は次々と姿を消し、
2000年には21,495件あった書店の数は、
2020年には11,024件と、この20年で約半分に減った。


だが、そんな苦戦を強いられているリアルな書店にも
近年売り上げを伸ばしているスタイルがある。

それが、ブックカフェ。

カフェを併設する書店はここ数年、数百件単位で毎年増えており
最近では、並べる書籍に専門性を持たせるなどして
それをその店の個性として打ち出すのがトレンドらしい。


そんな中、店内でコーヒーの焙煎までも行うという
強烈な個性を持つ、新たなブックカフェが、長野県佐久市に誕生した。


株式会社大阪屋書店 695COFFEE

創業1901年の老舗本屋さんが、新たにチャレンジされたのは、
ブックカフェならぬ、ロースタリーブックカフェ

こちらの地の昔の地名が 六供後(ろっくご)というところから、
カフェの名前は 695COFFEE と名付けられた。




カフェと書店の入り口は別々にあるが、中では繋がっていて
自由に行き来することができる。




こちらが書店ゾーン。

(書店にあるペンコーナーって、なんか妙に好き)


そしてこちらがカフェゾーン。

カフェゾーンの中央には、
焙煎機NOVO MARKⅡと、生豆が綺麗に並べられており、
その下には、珈琲関連の本が置かれている。

勿論、世間にある他のブックカフェ同様、
書店の本を未会計の状態でカフェに持ち込み、
コーヒーを頂きながら、ゆっくり寛いで読むことができる。

ハタキ攻撃を受ける心配は一切ない。



本の売り場までも、コーヒーの良い香りがする。

因みに、こちらのカフェゾーンは、
京都のブルーボトルコーヒー六角店を監修された方が、
施工をされたらしい。

とても雰囲気が良い。

レジ前の試飲コーナーの床には、
削って描かれたコーヒーのアートも。

「本とコーヒーって、とても相性が良いんです。
 カフェを併設してから、本の売り上げが伸びています。

 もちろんそこにコーヒーの売り上げものってきますので、
 とても順調です」

そう仰られたのは、
株式会社大阪屋書店 専務取締役の戸塚さん。


(ハンドドリップされているのが戸塚専務)

「焙煎機は、NOVO MARKⅡにして良かったと思っています。

 みなさんとても珍しそうに焙煎機を眺めていかれますし
 一周グルっと人に囲まれているような時もあります。笑」

確かに佐久市で NOVO MARKⅡを導入いただいたお店は
今のところこちらだけ。
はじめて目にされる方がほとんどだろう。

戸塚さんがNOVO MARKⅡを見つけられたのは、
ネットでたまたま、偶然だったらしい。

「フルオートの焙煎機をネットで探していたら
 たまたまNOVOのホームページに辿り着きました。

 そしたら見学予約フォームがありましたので
 すぐに予約して、渋谷へ見学に伺いました。

 そこではじめて実機を見て、説明を聞いていたら、
 もうこれは導入するしか無いって考えになりましたね。

 味は当然よかったですし、操作性も申し分ない、
 値段は決して安くはないですけど、
 100g~1kgまで、焙煎度も選べて、
 誰にでも安定して焙煎ができるのは魅力です」

「常に同じ品質を提供することは、とても難しいことですが、
 その為の努力は、やはり大事なことです。

 飲食のチェーン店が人気の理由は、
 どこで食べても同じ品質が担保されているからです。

 これはコーヒーにも全く同じ事が言えます」


 
「元々コーヒーが好きで、色んなお店で購入していたのですが、
 味が安定しているお店は、本当にごく僅かだと思います。
 リピートしたら味が前と違ってた事、何度もありますし。

 商品の均一化は「金太郎飴」と揶揄される事もありますが、
 安定したクオリティは、確実に信頼感を得られるものだと
 私は思います」


大阪屋書店さんは、同じ場所で、飲食チェーンの「大戸屋」も経営されている。
品質の安定化を重視され、そこに注力されている理由も頷ける。




695COFFEE、大阪屋書店、大戸屋、3店舗は全て屋内で繋がっている。

聞くと、大戸屋はナショナルチェーンとしては
調理技術やオペレーション等がわりと複雑な方だという。

「その点、NOVOは良いですね。操作がとても簡単です。
 私でなくても、従業員は全員操作できますから。

 浅煎りから、深煎りまで、
 これだけの焙煎を、手をかけずに出来る、
 冷却までもフルオートで。

 省人化も可能なNOVO MARKⅡを通したコーヒーの仕事は、
 高効率、高付加価値も実現し、更には
 SDGsの理念にも合致しているといった意味合いでも
 この上ないもののように思えます」

「飲食業は、他の商売よりもフィードバックが早くて
 とても実感しやすいところが良いですね。

 美味しいと言っていただいて、
 その豆を購入して帰っていただけると、
 やっぱり嬉しいですし、ダイレクトにやりがいを感じます。

 「美味しい」は、飲食業の醍醐味ですね」

そんな話をしていただいていると、
どうやら本の相談をしたそうなお客様が。

「ちょっとすみません」と、戸塚さんはお客様のもとへ。


お客様からすると、本に詳しいカフェ定員さんなんだろうな…
とか思いながら、こっそり一枚撮らせていただく。

ネットの書店では再現できない、リアル書店の風景。

今や、わざわざ本屋さんに行かなくても
インターネットでポチっと買える時代。

逆らえない時代の流れというものも、当然あるだろう。

ただ、この20年の間に、書店の半分が無くなった理由は、
オンラインの書店や書籍だけが原因ではないような気がする。


淘汰されてしまった本屋さんと、
今もその街で愛され続けている本屋さんとの違い。

そして今、ブックカフェが流行っている理由。

併設されたカフェは、ただ本が読めるカフェ空間ではなく、
その書店が持つ、おもてなしの精神と姿勢の表れとして、
存在するのかも知れない。

カフェ定員の姿で本の案内をしている戸塚さんを見ていると
自然とそう感じた。

そして、そのような精神と姿勢を持つ本屋さんだけが、
インターネットの発展と共に消えた書店とは違い、
今も選ばれ続けている書店なのではないかと、思いはじめた。

もし仮に、ブックカフェというものが、
その書店がお客様をおもてなしする姿勢の表れ だとすると、
大阪屋書店さんのブックカフェ、695COFFEEは、
最上級に表れているお店だと思う。


店内に焙煎機を設置し、
お客様の好みに合わせて生豆を選び、
好みの焙煎度で仕上げてご提供。

職場や自宅などでも気軽に淹れたてコーヒーが飲めるよう、
各種ドリップバッグもラインナップ。

さらには、アーモンドやピスタチオまで、店内で焙煎したてのものをご提供。

もはや、その辺のカフェ以上に整っていて、
カフェ単体として見ても、
とても素晴らしいお店に仕上がっている。

ここまでのおもてなしをするブックカフェは、
他にあるのだろうか。



そういえば、ハタキおばさんのお店は、
知らない間に姿を消していた。

きっとあのハタキ攻撃を受けた人は、
私の他にも多くいたことだろう。

焙煎機を設置したカフェを本屋に併設することなんて
思いも浮かばなかっただろうな。


私は子供の頃の私を、ここに連れてきてやりたい。


写真・文責:東京支社/ラボセンター 高島
(ダイイチデンシ株式会社)
2021年10月掲載