思えば、変な3人だった。
ドラクエで言うと、
女武闘家と勇者と魔法使い。
全員キャラが違う。
最近、有り難いことに、
お客様をご紹介していただくことが増えた。
私の友人である、
京都の老舗生麩屋さんのご紹介で来られたのは、
そんな3名様。
お聞きすると、
みなさまIT会社のメンバーであった。
お一人はオーナー様。
そして、取締役とデザイナーさん。そのお2人はご夫婦。
一年ほど前から、
スペシャルティコーヒー専門のカフェを始められた。
IT会社の取締役が、カフェの店長。
なんだか 厚切りジェイソン みたいな感じ。
ご夫婦のお名前は小林さん。
お二人は元々コーヒーはお好きであったが、
やるにはあまりにも後発、
そうご夫婦で思われていたころ、
大阪のワインとコーヒーの銘店
「タカムラコーヒーロースターズ」さんで
スペシャルティコーヒーに出会い、
新しい事業、文化として昇華できるのでは、と
思い返された。
そして、まずは同店より焙煎豆を仕入れられ、
大阪は西区にある靱公園近くで、
スペシャルティコーヒー専門カフェ
「ROOM58」を始められた。
「こんなコーヒーもあるのかと…
そこからは早かったですね」と、
店長の小林さん(ご主人)は言われる。
このあたりのフットワークの軽さは
IT業界の方ならではだろう。
あれこれ悩むより、やりながら考えよう、
そんなスピード感。
世界的に広がりつつある、
コーヒーのサードウェーブの波にバッチリ乗られた。
しかし、自分たちで焙煎をするところまで行かないと、
まだブームに乗っかっただけで、
長く続ける事業として先が見えない。
されど焙煎の知識を今から長年かけて習得するには、
先が見えないし、ITとの両立も難しい。
日々のお客様の反応から、
新しいコーヒーの魅力に良い感触を掴まれながらも、
そう考えられていたところ、
取締役をされている会社のオーナーさんが、
私の友人の老舗生麩屋さんと知り合いで、
弊社の焙煎機のことを知られ、
悩みが解決できるのでは?と、
ショールームに三人でご訪問いただいた。
「鮮度が悪い珈琲飲んだら、おなか壊すんです。」
まずは珈琲を飲まれた小林さん(奥様)が、口火を切られた。
口調は藤原紀香的な、神戸っ子。
幸いなことに、NOVOで焙煎したての珈琲の味は、
ご満足いただいたようだ。
その時は、生豆と焙煎機を見られながら、
かなり盛り上がったのを思い出す。
「いわばコーヒーが元々素人の僕らでも、
デジタル制御で、スペシャルティコーヒーが焼ける。
まさにこれだ!と思いましたね。」
とは小林さん(ご主人)も、その時をふり返られる。
ご見学の終盤には、ワイワイ楽しくお話、そして、
我々の70種類ある生豆のラインナップを見ながら言われた。
「スペシャルティの豆もすごい面白そうですね、
あと、ここにないんですけど、
ドミニカのアルフレッドディアス農園のプリンセサ ワイニー、
これの生豆も仕入れてもらえますか?」
言われたのは、
シングルオリジンのワイニーという、
発酵が多めの豆。
それを指定されるなど、
ご自分たちでは、元々素人と言われながら、
えらくマニアックなご夫婦だ。
それを自由に、温かく見守られるオーナー。
お話をしながら、ひとつ、確信できることがあった。
バランスが最高に良い。
独特のハーモニーを奏でるブレンドコーヒーのように、
見事な組み合わせ。
珈琲という新しいフィールドで、
他にない魅力のお店ができる予感がした。
その後、私たちはアルフレッドディアス農園のルートを開拓し、
そして、その間、オリジナル色の焙煎機の製造、
それ以外の他のコーヒー機器と器具もご導入いただくなど、
何度もやりとりをさせていただき、
お店の内容が決まっていった。
ITの人たちの特徴は、決まるのも早いが、
状況に応じてそれらが変わり、
ドンドン違うアイデアも出てくる。
朝令暮改。
おかげで焙煎機の色まで、途中で変わったりもした。
(別途追加料金加算御了承ノ上)
そしてカフェ「ROOM58」はみるみるロースターに進化され、
場所も土佐堀に移転、
スペシャルティコーヒー専門のロースタリーカフェ
「58 Coffee Roasters」さんとしてオープンされた。
プレオープン日は5月8日。
プレオープン日にお伺いすると、
そこにはデジタルサイネージによる
メニューやモニターが全開の店内。
「これが、いつもの仕事ですわ」と、
小林さん(ご主人)もちょっとドヤ顔。
まるでNYのクラフトビールの店みたい。こんなポップに、
スペシャルティコーヒーを説明されている店はあまりない。
スペシャルティコーヒーは、単にアメリカ発の
主に浅煎りコーヒーのブームというだけでなく、
産地の個性を、焙煎や抽出で引き出すお店の個性、
それを楽しむ文化。
それが産地にも還元され、
サイクルが循環することが最も重要なところだろう。
「仮に、エチオピアの農家から
1kg30円の生豆の価格を、300円で買ってあげれたら、
その農家の人は、日本で例えると、
年収300万の人が3000万になるようなレベルの価値になる。
美味しいものを作ってもらって、そんな夢を掴んで欲しい。」
弊社の生豆パートナーは、熱くそう語る。
産地でコーヒードリームが出来上がり、
それを個店で、生豆から取り扱い、焙煎。
お客様に新鮮な豆を届ける。
最高の環境、新しい文化である。
しかし現在、それらはともすれば、奥が深すぎるせいか、
小難しい意識高い系のコーヒーとも思われてしまいがち。
それが、このポップさはどうだ。
わかりやすいだけでなく、ワクワクさせる。
作られているのはデザイナーの小林さん(奥様)。
プレオープンの日に感じたのは、
素晴らしいコーヒー文化の発信が
ここ大阪の土佐堀から始まるということ。
最高だ。
後日、グランドオープン。
その時にはまたデジタルサイネージが進化していた。
また店頭には、温かみも感じる、アナログなA看板。
お二人お子様をお持ちの奥さまならではの、
目線、気遣いも描かれていた。
店内では、ひとつひとつの豆のご説明に、
試飲用のポットと紙コップ。
ポップだけでなく、実物も感じられる。
ちょっと高めの珈琲を買うのに、
味をみないなんて、ありえない、というように。
自家焙煎の豆屋さんでは、クラフト紙の袋に
「ブラジル なんたら農園」と貼るだけで、
以上! みたいなお店の方が多い。
この差はどうだろう。
「私たちは、元々素人からこの業界に入ってきたんで、
やれることはなんでもやろう、そう決めてます。」
味見もしっかりできて、妙なウンチクじみた説明なしに、
ワクワクしながら、自分に合った豆を買うことができる。
この差が大きな差であることは、
生来の珈琲業界の方でなく、
元々コーヒー好きなお客様目線があられたからこそ、
気づいておられることかもしれない。
そして、そんな58さん自信のラインナップ。
弊社の30種類以上はあるスペシャルティ生豆を、
何度も何度も焙煎度を変えて焙煎、試飲されて、
焙煎して1日目から10日目まで、味の変化もみられながら、
厳選されたラインナップだ。
見るとあれほど言われていた、
ドミニカのアルフレッドディアス農園が、ない。
お聞きすると、この豆だけ3日目でなく、
8日目ぐらいが香りのピークなので、
鮮度を売りにするウチのお店のコンセプトにはあわない、と、
今回は泣く泣くラインナップから外されたそう。
ご自分たちでとことんまでやり、
納得がいってないものはラインナップには入らない。
そして、そのスピードは速い。
素晴らしいご姿勢に、頭が下がり放題だ。
焙煎の研究も他よりも極めたい、そう言われる。
そして、その極めたものに、再現性があることが、
デジタル制御のNOVOの真骨頂であるということを、
ITからきた新しいタイプのロースター夫妻は
知っておられるようだ。
「店の広告塔にもなって、
人件費いらずの、全自動のデジタル制御のマシン、
この味のクオリティ。
300万(本体価格)がこんなに安いと思ったことは
今までありません。」
最高に、嬉しいご感想を言っていただけた。
そしてさらに半年が経ち、
先日お伺いすると、そこはもう人気店に。
コーヒー専門誌では、2ページで特集されるほどに。
行くたびに思うが、珈琲が抜群に美味しい。
珈琲の美味しい店が実はそんなにないことを、
このようなマニアックな文章を読まれているような、
コーヒー好きのみなさまなら、お気づきだろう。
ここは異常な美味しさ。
なぜ、こんなにも美味しいのか聞くと、
小林さんは笑う。
「あなたから買ったマシンと、
あなたから買った生豆を焙煎して、
ドリップして出しているだけですよ」
とんだご謙遜だ。
生豆と焙煎機で、
85点はどなたでもとれるように、
私たちはがんばっている。
だが、100点を取ることは、
お店の毎日の探求、研鑽がないとあり得ない。
そして、デザートも絶品。ケーキは奥様の作だが、
ケーキ専門店のそれを完全に凌駕している。
チーズケーキを食べ歩いているプロのライターさんにも、
大阪ではここのチーズケーキが一番美味しいと褒められたことを
嬉しそうに話される。
そしてやはり、
スペシャルティコーヒーを使ったメニューが一番人気だ。
お聞きしてるうちに感じたことは、
どうやらケーキの素材にもこだわりまくられているようだ。
「スペシャルティコーヒーだけにこだわっているってだけじゃ、
残念でしょ?」とニヤリと笑われる。
高級なイタリア料理・フランス料理店で、
最後に台無しにする珈琲が出てくる店とは違う。
「素人が、原材料費をかけまくって、それで利益になるのか?」
そんなシビアなご意見もあるだろう。
しかし、珈琲でもスイーツでもそんな安売りはされていない。
それでも来たいというお客さんがここには沢山おられる。
「毎日が楽しいですよ。いつも調子にのって、
ついついお客さんにサービスしてしまうようなところが
僕らにはあるんですが、
それが全部、良い評判になって返ってくるんです。
最高です」
辛い時には、預金通帳を見て、
これは我慢料だと思って頑張る人もいるだろう。
しかし、楽しく仕事をすることで、道を開く人もいる。
ここは、圧倒的に後者。
そして、最初からの成功もあり、
既に二店舗目の計画が進められ、
そんなメンバーも募集中である。
小林さんの奥様は、3人目のお子さんもご懐妊されたよう。
ご多忙ながら、順調すぎる日々に、
人生の設計はどうなっているのか小林さんにお聞きすると、
この「58 Coffee Roasters」のブランドとともに、
子供も少しずつ大きくなっていくこと、と言われた。
いつも真夜中にメールの返信が届く。
楽しいながらも、日々遅くまで、奮闘されているだろう。
もしかしたら、楽しくないとやれない冒険、と
言った方がいいかもしれない。
そんな冒険をともにしたい方は是非、今連絡をして欲しい。
お店を出るときに、そういえば…と、
少し気になっていたことをお伺いした。
「58 coffee roastersの、58ってなんのことです?」
何度もお会いして、話をしたのに、
何故か聞きそびれていた。
58… ITのトップたちの、ビッグデータに基づくような、
深いメッセージがあるに違いない。
「あ、小林で、コバ、58です。」
思い返せば、楽しそうなメンバーだった。
最初の良い予感は、これに尽きた。
勇者58たちの、冒険はまだ、はじまったばかり。
文責・撮影 中小路通(ダイイチデンシ株式会社)
2019年2月掲載