5年前、京都の有名な空間デザイナーさんの、その歩みを振り返る、
そんな周年PARTYにいったことがある。
華やかな会の帰り道、
偶然帰る方向が同じで、そのデザイナー氏とお話を。
少し酔っておられた氏が、私にこう言われた。
「中小路さん、もう焙煎機を売るのやめたら?」
その頃は、サードウェイブといわれる珈琲のブームが花咲くころ。
ななな、なんでやねん!と、はまだばみゅばみゅばりに
突っ込むところを我慢していると。
「これからは…文化を売らないとね」
ニッコリひとこと。
「え?文化っすか?」
デザインのカリスマは、すでに京都の狭い路地の角を曲がられていた。
そして時は流れ…..
父さん、僕はまだ焙煎機を売っています。
焙煎機のショールームをやっていると、
日々、色々な人が訪れられる。
私は、仕事中もリラックスしていることが多く、
オープンな雰囲気でいつもお会いし、
初対面のお客様にも、リラックスしてお話をしてもらうようにしている。
が、中にはコーヒーのレジェンド的な方も来られ、緊張することも。
「美味しんぼ」の海原雄山が来た時の、
富井課長(おい山岡君!)みたいな気持ちになる。
そんなレジェンドの共通項は、文化の香りがあることに気づいた。
文化を作られた人たちのオーラが漂ってくる。
「いやいや、金沢にはそれほど、コーヒーの文化がないんですよ」
と、にこやかに謙遜されたのは、
金沢、北陸ではレジェンド級の珈琲の第一人者で、
創業40年の珈琲豆専門店「キャラバンサライ」を1980年に創立し、
今も現役バリバリで経営されている、西岡社長。
百花繚乱のコーヒーブーム、
そんな戦国時代の今、
まさに加賀百万石の当主だろう。
決してお世辞ではない。
珈琲豆専門店「キャラバンサライ」を金沢中心に何店舗も展開され、
近年では「金澤屋珈琲店」というコンセプトショップも
金沢の一等地にOPENされた。
京都といえば小川珈琲のように、
石川といえば、キャラバンサライさん。
まさに、そのコーヒー文化を彩られている中心におられる方だ。
最初は展示会で何度かお会いし、
その後、金沢まで来てもらって説明をということだったが、
やはり実機を触って、焙煎をしてもらいたいというと、
わざわざスタッフの方と金沢から来ていただいた。
そんな西岡さんの来訪にやや緊張しながらも、
焙煎機についてしっかりPRさせていただいた。
来られたレジェンドたちの特長は色々とトライをされたがる。
こんなことしたらどうだろうと、
例えば霧吹きで生豆を少し濡らして焙煎するなど、
テスト焙煎のオーダーの中には、斬新なご発想もあった。
こんな考え方があるのかと、
様々なテスト焙煎を経るうち、私は金沢のレジェンドの
少年のような珈琲への探求心に魅せられることになる。
後日、ショップロースターとしてご購入の意思をいただいたときは、
嬉しいと同時に、さらに気が引き締まる想い。
金沢の本店に相応しいマシンであるか、
日々問われることになるだろう、と。
そして、納品を経て、導入いただいた半年後、
そんなお声を頂戴しに、金沢を訪問をすると、
西岡さん自ら歓迎いただいた。
ご感想をお聞きする。
スペシャルティやカフェインレスの焙煎を中心に、
NOVOは大活躍とお褒め頂いた。
ふぅ、良かった。
こちらにはもちろんNOVOだけでなく、数々の焙煎機がある。
メイン工場には富士ローヤル、プロバットの大きな焙煎機、
そして店頭にはショップでのロースター、
オランダのギーセン社のもの、
アメリカのデートリッヒ社のものと、弊社製のNOVO。
ご紹介いただいた、
いつも焙煎しているというお店の焙煎士さんは言われる。
「NOVOは焙煎しながら、焙煎できるので、とてもいいですよ」
どういう意味だろうか、
キャラバンサライさんで焙煎するということは研究の連続、
勉強しすぎて焙煎のことしか考えられなくなったのではと心配したが、
配置を見て、納得。
ギーセンの焙煎をしながら、
そのついでにNOVOの焙煎をすることができる、
そういう意味合いだった。
「なるほど、二刀流ですね」
というと、
「NOVOはボタン押したら、ほっておくだけで良いので大丈夫です」
と、若くてとても優秀だと西岡さんお墨付きの焙煎士さんは、笑顔。
ただ、工場の大きな焙煎機の方は、まだ触らせてもらえないとのこと。
ベテランの焙煎士さんの知見がものを言うのだろう。
プログラム通りなので、安心して任せられる、
目が離せる焙煎機、というのも魅力だけど、
西岡さんはそれだけではないと言われる。
煙も少なく、小回りが利く、
スペシャルティとカフェインレスに向いているのも納得。
特にお客様のニーズを聞いて、
店頭で小ロットで出来るのがとても良い、と。
味と香りも、ウン千万のギーセンに全く負けてない、とお墨付き。
めちゃくちゃ嬉しいお言葉だ。
実は、こちらのNOVOは一部オーダーメイド、
特別仕様にさせていただいている。
焙煎を終えたのちの冷却のパワーとスピードが
NOVOの売りのひとつだが、
西岡さんのオーダーで、
焙煎が終わったらよりすぐに冷却してほしいというニーズがあり、
特殊なソフトプログラムを導入した。
実はすぐに冷却の工程にうつると、
深煎りした豆は、豆につくコーヒーオイルのため、
ゆっくりロースティンググラス(焙煎するガラス管)をつたって落ちてくるので、
稀にそれらが1粒2粒とグラス内に残ってしまうこともある。
そのため、焙煎が終わって少しだけ落ち切るのを待つのが通常仕様。
だが、こちらキャラバンサライさんのものは、
落ちたらすぐに冷却とさせていただいた。
まるで、カウンターの寿司職人が、
前に置いたらすぐに食べて欲しいというように、
秒単位で、すぐに冷却。
「あれもいいね」と西岡さんは笑顔。
(後日、スタッフの方から深煎りの時、1粒2粒だけ残るの、なんとかならないか、
と言われてしまったが、すぐに冷却することをボスはお望みだという他ない、笑)
そんなこだわりがつまった珈琲豆の売場も見せていただくと、
焙煎してまもない香り高いコーヒーがたくさん並んでいる。
焼きたてのパンを見てるうちに、思わずいっぱい買ってしまうような、
そんな売り場の雰囲気。
もちろん、そこにはスペシャルティだけでなく、
長年愛されているベストセラーのキャラバンブレンドはじめ、
数々のラインナップ。
そのブレンドの名前にも、歴史とストーリーを感じる。
そして、キャラバンサライさんでは、コーヒーだけでなく、
羊羹やケーキなど、物凄く創意工夫されたもの、
金沢のお土産に相応しいお菓子も多く作られている。
購入されたNOVOはカカオ豆も焙煎できる仕様のため、
そちらでもご活用いただける。
抜群のその味・ブランドで、お菓子でも
「金沢かがやきブランド」の最優秀賞をとられたり、
珈琲豆専門店の域を超えている。
ふと、「文化を売らないか」と言われた京都のデザイナー氏の言葉を思い出す。
まさに、こういうことだろう。
「昔と今では、本当に生豆の質が全然違うね。」
隣にある、創業のころよりから経営されている喫茶店にて
西岡さんに珈琲とスパゲティをおごっていただきながら、
創業時の色んなお話を教えていただいた。
喫茶店だけでは、利益を出して商売を続けるのが難しいと、
生豆の焙煎を始められ、珈琲豆専門店を作られ、それを広められてこられた。
最初は、どこの商社もうちに生豆を販売してくれなかったけどね、と、
少し懐かしく笑われる。
思えば、西岡さんは四国のご出身、
金沢の地で創業され、
国連のコーヒープロジェクトなどの出会いを経て、
スペシャルティコーヒーと出会われ、
一から珈琲の文化を作られてきた。
きっと多くのご苦労と、ストーリーがあっただろう。
しかし、そんな昔話もそれほど長くはされなかった。
現在と未来の話が多くなり、
うち、カカオ豆の研究や、珈琲生産者さんとの新しい取り組みのお話に。
60歳を超えられても、何十時間かけて南米などの産地に行かれ、
交流されているコロンビアから呼ばれた珈琲の最先端の生産者の方々と、
昨年は金沢で大きな40周年記念イベントもやられている。
金沢は喫茶店やカフェが多い街だ。
しかし、珈琲の文化はまだまだこれからだと言われる。
「コーヒーも、味噌とか醤油みたいに、
その家の味があるものだと思う。
金沢でそんな文化を作りたい」
世界でもそんな文化のある街は少ない。
西岡さんは、金沢のそんな未来を熱く語られる。
さて、2020年は、大変革の年。
コロナ禍のステイホームの影響で、
コーヒーはより家庭で消費されるようになっている。
つまり通常の飲食店さんは物凄く苦しい中も、
実は珈琲豆屋さんは、売上がおおむねとても良い。
(喫茶店やカフェに卸す焙煎屋さんは除く)
キャラバンサライさんはもちろん、
弊社製NOVOを導入されているお客様にお聞きしても、
3月・4月・5月と過去最高の売上を更新中とまで言われるお客様もおられ、
珈琲豆を、一般のご家庭に売られているお店は盛況である。
弊社取扱の生豆の需要も昨年の150%ほどになっている。
不要不急なものを控えて、とのアナウンスはよく耳にするが、
コーヒーを控えた人はほとんどおられなかったようだ。
それは根付いてきた文化といえるのではないだろうか。
インバウンド需要や、
一見客を釣るような見た目、
インスタ映えだけを追っていた飲食店は、
流行とともにやがて消えてしまう。
しかし、消えずに積み重なっていくのが文化。
そんな珈琲文化を創出されている西岡さんに、
私たちのNOVOが、年々良くなってくるスペシャルティ生豆の専用マシンとして、
今後も寄与できること、店頭で使っていただけることは、本当に嬉しい。
少し誇らしい気持ちにもなる。
私たちも新しい文化を創出する、そんな一員になれた気がして。
キャラバンサライ
文責・撮影 中小路通(ダイイチデンシ株式会社)
2020年6月掲載